BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

本当はとんでもない特撮ソング②

 1971年に放送が開始され、社会現象とも呼べる大ヒットを記録した特撮ヒーロー番組「仮面ライダー」。ウルトラマンのように巨大なヒーローと怪獣や宇宙人が戦うのではなく、等身大のヒーローが悪の秘密結社が送り込む怪人と戦うという新たなヒーローのスタイルが確立したことによって、その後、同様の番組が雨後の筍のごとく現れることになりました。これらの番組は「仮面ライダー」の基本的なパターンを踏襲しつつも、主人公を改造人間ではなくロボットや超能力者に設定したり、一人ではなく複数人でチームを組ませたりといったように、様々な試行錯誤か重ねられていきました。当然、それらの中には名作もあれば迷作、怪作もあったわけですが、1972年、一つの特撮ヒーロー番組の放送が開始されました。

愛の戦士レインボーマン M作戦編 [DVD]

愛の戦士レインボーマン M作戦編 [DVD]

 番組の名は「愛の戦士レインボーマン」。仮面ライダーよりもさらに前、等身大ヒーローの真の元祖ともいえる月光仮面七色仮面を生み出した、川内康範氏が原作を手掛けた特撮ヒーロー番組です。日蓮宗の寺に生まれた川内氏の手によって生み出されたヒーローは、「憎むな、殺すな、赦しましょう」という月光仮面のキャッチフレーズが示すように仏教的な愛を帯びた性格付けが大きな特徴です。「愛の戦士レインボーマン」の主人公、レインボーマンことヤマトタケシもまたその系譜に連なるヒーローであり、自分のために足に障害を負った妹の治療費を稼ぐため格闘家として身を立てることを決め、インドの山奥に住む聖者ダイバ・ダッタのもとで修業を開始。その末に大いなる超能力だけでなくダイバの崇高な心をも受け継ぎ、自分の力を世の人々のために役立てることを決意した・・・という、異色の誕生の経緯をもつヒーローです。では、仮面ライダーに対するショッカーのように、彼が戦うべき悪とは何だったか。日本へと帰国したタケシは、恐るべき秘密結社の存在を知ることになります。その名は、「死ね死ね団」。

 特撮番組が抱える大いなるジレンマの一つに「なぜ怪獣は日本にばかり現れるのか」「なぜ悪の組織は日本ばかり狙うのか」というものがあります。これに対してメタな視点ではなく合理的な解釈によって答えを出そうとした作品はいくつかありますが、おそらくこの番組以上に明快で誰もが納得できる答えを出した作品はないでしょう。なぜなら死ね死ね団は第二次大戦時に日本人によって拷問を受けたり家族を殺されたりした過去を持つ人間によって構成された組織であり、その目的は「日本人の全滅」であり、「日本という国家の消滅」なのですから。日本を攻撃することにおいてこれほど明確な目的を持った組織は、後にも先にも死ね死ね団だけです。

 死ね死ね団の悪の組織としての特異性はそれだけに留まりません。仮面ライダーに代表される特撮ヒーロー番組においては、悪の組織が人間社会に脅威をもたらす陰謀(作戦)を企て、それを察知したヒーローが作戦の実行役である怪人と戦い、見事これを倒して計画の阻止に成功する、という流れを1話ないしは2話の中で描くのがセオリーとなっています。この中では悪の組織の作戦はあくまで物語の構成要素の一つに過ぎず、今週ダム爆破を企てたかと思ったら次の週は毒ガスの散布を企む、といったように個々の作戦の間に一貫性はまるでなく、それらが彼らの目的である世界征服などにどう結び付くのかも不透明。おまけに、彼らは一度ヒーローに作戦を阻止されると同じ作戦は二度とやりません。これに対し「愛の戦士レインボーマン」では、1話どころか1クール(約13話)をまるまる使って、死ね死ね団の恐るべき計画とそれを阻止しようとするレインボーマンの戦いを描くのです。中でもすごいのが、2クール目に展開される「M作戦」。その内容は、精巧な日本円の偽札を大量に発行し、死ね死ね団傘下の宗教団体を通じて日本社会に流すことによって大規模なインフレを引き起こし、日本経済の破綻と人心の荒廃を企む・・・という、恐ろしくリアルなもの。しかも、死ね死ね団は邪魔なレインボーマンに送り込んだ刺客たちを次々に倒されながらも、作戦通りにインフレを引き起こすことに成功してしまいます。死ね死ね団のもくろみ通り経済は破綻し、物資の生産と流通が止まり、飢えた市民が暴動を起こす事態にまで至ります。いかに数々の超能力を駆使するレインボーマンでも、市民を手にかけるわけにはいきません。もはや一人のヒーローが解決できるレベルを超えてしまった事態に対し、レインボーマンはどうしたか。なんと彼は政府の担当大臣の前に現れると、市民への食糧の無償配給を行うよう直談判したのです。レインボーマンの説得を聞き入れた大臣はこれを実行し、ようやく事態は沈静化していきました。

 さて、このように設立背景から目的から活動内容に至るまで、何から何まで恐ろしくリアルな悪の秘密結社・死ね死ね団。その死ね死ね団のテーマソングが、その名も「死ね死ね団のテーマ」です。

 悪の組織のテーマというのは特撮ソングの一つのジャンルと言ってもよく、悪の組織の恐ろしさ、世界征服やヒーロー抹殺にかける意気込みを歌った曲が定番です。「死ね死ね団のテーマ」もそれは同じですが、組織名からして殺る気満々なこの組織のこと、レベルが半端ではなく、とにかく一人でも多くの日本人を殺したいという狂気と憎悪があふれ出しています。昨日の「かえせ! 太陽を」は歌詞まで書きましたが、この歌に関してはとてもそんな勇気はありません。なにしろ1番だけで「死ね」が29回も出てきて、文字で書いたらゲシュタルト崩壊を起こしそうです。一応カラオケ店で歌うことはできるのですが、一人カラオケで歌うのが無難というものでしょう。少なくとも、しゃれのわからない人の前で歌うべきではありません。