BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

「心の傷」は言ったもん勝ち

「心の傷」は言ったもん勝ち (新潮新書 270)

「心の傷」は言ったもん勝ち (新潮新書 270)

 図書館で借りてきて読了。

 現代社会は「心に傷を受けた」と言ってしまえば、あとはやりたい放題なのではないか。精神科医である著者による、うつ病やセクハラ、パワハラ、医療裁判、痴漢事件などを例に、社会的弱者や被害者が過剰に優遇されすぎてはいないか、といった内容。

 同意できる点もあれば、飛躍しすぎているなと思う点もあり。痴漢事件の裁判において加害者よりも被害者の方が有利な立場にある、というのはまぁうなずけるのですが、だからといって電車の女性専用車両についてまで、男性を侮辱するものだとして一日も早くやめてほしい、とかみつくのはさすがにどうかと思いました。

 こうした現状を著者のように「被害者帝国主義の時代」とまで言い切ることの是非はともかくとして、加害者と被害者、社会的強者と弱者を公平に扱おうとして、被害者や弱者を持ち上げる、という方法がとられがちなのが今の世の中なのではないか、という思いはあります。本当は両者の言い分を十分に聞いたうえで公平な視点から両者を平等に扱うことが理想なのでしょうけれど、忙しい現代では誰にもそんな余裕はありませんし、感情に左右される生き物である人間にそれを望むのは難しいのでしょう。まして日本人は判官びいきで有名ですし(でもこれって、日本人だけに特有の心の傾向なのでしょうか。外国人の方に是非とも尋ねてみたいものです)。

 余談ですが、著者は体罰についても、例えば試合で勝つか負けるかという時に監督が選手にビンタで気合を入れるようなことは必要ではないか、形式だけで「体罰だ。よくない」とするべきではない、としています。本書が書かれたのは2008年。今現在の著者の体罰に対する考え方についても、ちょっと知りたいところです。