BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

キャパの十字架

キャパの十字架

キャパの十字架

 依然このブログでも取り上げた、NHKスペシャル「運命の一枚」。

2013-02-07 - BLACK DODO DOWN

 ノンフィクション作家の沢木耕太郎氏がロバート・キャパの代表作にして、フォトジャーナリズム史上最高の写真の一つである「崩れ落ちる兵士」の謎の迫るというものでした。NHKスペシャルは本になって出版されることがよくありますが、この番組の場合はむしろ、この本をもとにあの番組が作られたと言った方がよいでしょう。

 TVでは一時間足らずの放送時間の中に収めなければならないという制約があったため、要点だけをまとめた印象がありましたが、この本では沢木氏による検証の過程をつぶさに追いながら、写真の謎に迫ることができます。その検証過程の緻密さは、まさに圧巻。撮影場所であるスペインのエスぺホには3度も足を運び、知人のカメラコレクターから当時キャパとその恋人が使っていたものと同じ型のカメラを借りて撮影を行い、そこに写った山の稜線とキャパが撮った写真の背景の山の稜線が一致するかどうか確認する。写真に写っているものは人物はもちろん坂の角度、背景の山や雲の形、地面に生えている草、さらには写真そのもののサイズまで、あらゆる情報を引き出して推理を組み立てていく。そこまでするかと、感嘆しきりでした。

 なによりも文面からは、その行動の原動力が写真に隠された真実を暴きたてようという気持ちではなく、キャパに同じ「視るだけの者」としての哀しみを見出しそれに共感し、海外の作家によるキャパの伝記の翻訳を行った沢木氏の、キャパに対する様々な思いがそうさせたのだということがありありと伝わってきます。わかりやすさにおいては映像には勝てませんが、その代わり、映像では伝えられない、伝えきれないものを伝える力が本には、言葉にはあるということを、読んでいて改めて感じました。