BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

NHKスペシャル「ロボット革命 人間を超えられるか」

NHKスペシャル

 昨夜放送されたものの感想。ナレーションが林原めぐみ、音楽が川井憲次と、狙ったような組み合わせ(楽曲は「スカイ・クロラ」のものが流用されていましたが)。

 冒頭いきなり登場したのは、現代アートの作家が作った、人が乗り込める全高4mの人型ロボ、クラタス。まさにボトムズ。ハッチが閉まるところなどは本当にテンションが上がりました。

水道橋重工 | Suidobashi Heavy Industry

 ただし、今回の主役はこうした人間が乗り込むロボではなく、人間が細かく指示や操作を行わなくても、人工知能によって自ら判断して行動する人型ロボット、いわゆるヒューマノイドです。

 ヒューマノイドの代表格と言えば、ご存じホンダのASIMO。開発チームによって改良が加えられ続けた結果、現在では走ったりジャンプしたり、同時に3人の注文を聞いて飲み物を運んでくるという芸当まで可能になっていました。もうレストランやカフェのウェイターはASIMOでも立派に務まるということですね。

 そんなASIMOを世に送り出したホンダの開発チームでしたが、ASIMOがあくまで実験室レベルのロボットであることを痛感させられることが起こりました。言うまでもなく、福島第一原発の爆発事故です。ASIMO原発での作業に使えないかという声が多数寄せられたものの、平らな場所での機動しか想定されていないASIMOに、瓦礫の散乱する事故現場での作業は不可能だったのです。この苦い経験をばねに、現在開発チームは東電に協力し、ASIMOの技術を生かした作業用ロボットの開発を進めています。

 一方、福島原発の事故は海外におけるロボット開発にも大きな変化をもたらしていました。これまで海外のロボット開発者たちはヒューマノイドには見向きもしませんでしたが、福島原発のような事故の現場では、これまでのような個別の作業に特化したロボットは役に立たないため、瓦礫の散らばる場所を踏破し、人間と同じように道具を使って作業を行うことのできる汎用性を持ったロボットとして、ヒューマノイドがにわかに注目を浴びるようになってきたのです。特にアメリカのDARPA(国防高等研究計画局)は世界中のロボット開発者に災害用ロボットの開発を呼びかけるコンペを行い、必要な資金の提供も行っています。ただし、DARPA国防総省の機関であるため、その資金は軍事予算から出ているもの。開発したロボットの技術が軍事転用されるのではないか、という危惧もあり、日本のロボット開発者はこの計画に及び腰です。

 ロボット開発の新たな波は災害用ロボットのみならず、産業用ロボットにも押し寄せています。アメリカのロボット見本市では、単純な作業なら面倒なプログラムを組まなくても文字通り手取り足取り教えることによって5分ほどでマスターしてしまうロボットが注目を集めていました。しかも、価格は一台たったの200万円。日本の工場にも同様のロボットは投入されており、ある工場ではそれまで13人の従業員がやっていた仕事を、ロボットが肩代わりしていました。

 ロボットが人間の労働を肩代わりすることによって、これからの社会はどうなっていくのか。番組では問題提起にとどまっていましたが、今日ちょうど下記のような記事を見つけました。

ロボットが人間の仕事を奪って何が悪い。失業“問題”という思い込み | sakedrink.info

 ロボットが人間の労働を肩代わりすることを、機械による就労機会の奪取あるいは人間の堕落ととらえるか、あるいは人間の労働からの解放ととらえるか、そこが問題なのでしょう。「労働」という行為そのものをどうとらえるかということが問われる時代になった、と言えるでしょう。そもそもロボットによって人間の仕事が奪われると大騒ぎするということは、働くこと以外に人間には価値などないと言っているようなものではないでしょうか。労働力としての価値は、人間が持つ多様な価値の中のほんの一つにすぎないはずなのに。

 既に頭脳労働の多くはコンピュータが肩代わりしていますが、今後は肉体労働までもロボットが肩代わりすることになる。そうなれば人間に残された仕事はコンピュータにもロボットにもできない仕事・・・創造力あるいは問題発見能力が要求されるものだけになるでしょう。ただ、言うまでもなく世の中そういう能力をもった優秀な人たちばかりではないので、そういう人たちはこれからどうすればいいのかというのが今後の問題となるでしょう。機械が働いてくれるならそれでいいじゃん、と私などは思ってしまうのですが、人間にはどうも好んで苦労をしたがったり苦労をすることが美徳だと考えたり、あまつさえ楽をしている人を見ると難癖をつけたがる変な癖があるので、そういう人たちがあれこれ口を挟んでくることによって、機械に任せることで楽ができる世の中の到来が遅れそうな気がしてなりません。

 ヒューマノイドはヒトが自分たちの姿に似せて作ったものです。一方、多くの神話や宗教においては、そのヒトもまた神様が自分の姿に似せて作ったものだとされています。旧約聖書の創世記の天地創造では、神様は6日かけて世界や動植物を創り、最後にヒトを創りました。では、それに続く7日目に、神様は何をしたか。

神は第七日にその作業を終えられた。すなわち、そのすべての作業を終って第七日に休まれた。
(「創世記」第2章第2節)

 神様でさえヒトを作ったらあとは休んだのです。そろそろヒトも休んでもいいんじゃないでしょうか。