BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

小説 仮面ライダー響鬼

小説 仮面ライダー響鬼 (講談社キャラクター文庫)

小説 仮面ライダー響鬼 (講談社キャラクター文庫)

 いやぁ、面白かった。Wもそうでしたけど、やっぱりメインライターを務めた人が書くとすごく面白いですね。え、カブト? いや、あれは・・・。

 響鬼といえば、平成ライダーシリーズの中でもあらゆる意味において異色作。一般視聴者はもちろんのこと、漫画家や編集者といったメディアに携わる人たちの中にも熱狂的なファンを生み出し、それゆえにシリーズ途中で行われたプロデューサーやメインライターをはじめとした製作スタッフの一新による作風の急激な変化はかつてない騒動を引き起こした・・・わけですが、そのあたりについてはとりあえず割愛しましょう。とにかく、今での響鬼の大ファンである私は今回の小説シリーズ化で響鬼を前期のメインライターを担当した(そして現在ウィザードのメインライターを担当している)きだつよしさんが担当されると聞いて、その発表当時から胸を高鳴らせていたわけです。

 そして、発売の少し前になってフライング気味に入ってきた情報を耳にして、「そう来たか!」と膝を叩きました。なぜならば小説仮面ライダー響鬼は、「仮面ライダー響鬼VS変身忍者嵐」と呼ぶべき作品だったからです。

 変身忍者嵐。それは仮面ライダーの成功を受けて東映が送り出した数々の特撮ヒーロー番組の中でも、江戸時代を舞台に赤鷹の化身忍者・嵐が自分と同じ化身忍者を操り日本征服を企む血車党と戦う異色作。そもそも「仮面ライダー響鬼」という作品は、その前作の「仮面ライダー剣」で一度平成ライダーシリーズを打ち切り、この「変身忍者嵐」をリメイクした作品を作るはずだったのが、スポンサーの意向で結局平成ライダーシリーズを続けることになり、その企画案を流用する形で作られたという経緯を持つ作品であることは、ファンにとっては有名な話です。詳しくは下記の本に詳しいので、興味のある方は一読を。

「仮面ライダー響鬼」の事情―ドキュメント、ヒーローはどう“設定”されたのか

「仮面ライダー響鬼」の事情―ドキュメント、ヒーローはどう“設定”されたのか

 とにかく、こういう経緯を持った作品なので、たとえば「音」をキーとして変身するところなど、響鬼と嵐の間には共通点があり、この2つのヒーローが共演するという話自体には違和感はありました。ただ、放送当時私たちを魅了した、ヒビキさんに見守られながらゆっくりと成長する明日夢の成長譚ではないのかと、ちょっと残念な気持ちはありました。

 しかし、小説を読み始めるとすぐにそんな気分は吹き飛びました。TVシリーズとも劇場版とも全く異なる舞台。主人公のヒビキも、既に三十路を過ぎており人間的に円熟の域に達したTVシリーズのヒビキさんとは異なり、自分の道を自分で切り開く気概にはあふれながらも、有り余る力を何のために振るうべきか思い悩む若者に。そこに現れ、血車党復活の謎を追ってともに戦うのが、TVシリーズでの戦いを終えて数年後の変身忍者嵐ことハヤテ。TVシリーズでは迷う少年をそっと導く役どころだった響鬼が、逆に迷うヒーローとして嵐とともに戦い、その日々の中で自らの道に答えを出していくまでの思考や苦悩が丁寧に描かれていて、非常に読みごたえがありました。あえてTVシリーズの登場人物や舞台を捨て去り、全く新しい「響鬼」を書き上げて見せたあたりに、きだ氏の作品に対する愛情を感じます。

 戦闘シーンの描写があっさりしすぎている作品が多い傾向のあるこの小説仮面ライダーシリーズですが、この「響鬼」に関してはその点も抜かりありませんでした。TVシリーズを見ていた方なら、魔化魍に飛び乗って火炎鼓を押し付け、一心不乱に音激を叩き込む響鬼の姿を、その音まで含めてありありと脳裏に再現することができるはずです。