BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

怪奇大作戦 ミステリー・ファイル 深淵を覗く者

 女性ばかりを狙った、通常では考えられない手口での連続殺人事件が発生。次々に起こるその事件の手口を解き明かしていく牧だが、あまりにも明快にその手口を明らかにしていくことから、彼自身が警察に犯人ではないかという容疑をかけられ・・・。

 冒頭、かまいたち現象を利用した殺人シーン、事件現場に乗りつけたトラックの窓からこちらを観察する犯人、さおりによるおとり捜査など、あちこちに旧シリーズの名作「かまいたち」のオマージュが盛り込まれた今回。しかし内容はそこから一歩進めて、天才的な研究者であるがゆえに牧が抱える孤独や周囲との壁、そしていつ自分が犯罪者となりかねない危うさといった内面に切り込んだもの。的矢所長のセリフとして登場したタイトル「深淵を覗く者」は、ドイツの哲学者ニーチェの「怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ」というあまりにも有名な名言。SRIの他の所員たちにはない、牧だけが持つこうした危うさは、たとえば「恐怖の電話」などでちらりとのぞかれる程度でしたが、そこに深く切り込んでくれたのがシリーズのファンとしてはうれしかったです。

 旧シリーズの「かまいたち」では最後には犯人は逮捕され警察の取り調べを受けるものの、犯人の若者は臆病そうにおどおどするだけで何も語らず、牧たちがその様子を見つめながら「なぜ・・・」と思うところで終わります。本人以外には理解しがたい心理を抱いた人間による猟奇殺人が起こる時代を予見したかのような内容で「怪奇大作戦」の中でも評価が高い一編ですが、今回の話に至っては、犯人は一度も画面に顔を映さないまま自ら炎で身を焼くという徹底ぶり。燃え上がったその炎のかたちを見てさおりが「不死鳥」と形容したように、今回の犯人が死んだとしても、いずれどこかで別の誰かが・・・ということなのでしょう。殺人現場の野次馬をかき分け牧がこちらに向かって「お前なのか」と尋ねるラストシーンは、携帯電話とSNSの普及によって、日常生活と犯罪という非日常との間の壁がより薄くなった現代、もはや誰もが「深淵を覗く者」であるということを示す者なのでしょうか。

 こうして全4話が放送終了。放送前はあまり期待していませんでしたが、旧シリーズを踏襲しつつも現代に則して一歩進んだ内容のドラマは、非常に見ごたえがありました。4話で終わらせるにはもったいないので、いつか続編が作られることを強く期待いたします。