BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

怪獣文藝の逆襲 感想

 2013年の「パシフィック・リム」公開、2014年の「GODZILLA」公開、そして2016年公開予定の東宝ゴジラ新作に庵野秀明樋口真嗣両氏が脚本・総監督、監督に就任することが報じられるなど、長きに渡る眠りから目覚めつつあるかのような動きを見せる近年の怪獣文化。しかしその動きは映像に留まらず文学界にも影響を及ぼしているらしく、怪獣をテーマとした文芸アンソロジーがこのほど2冊立て続けに出版されました。まずは先に発売された「怪獣文藝の逆襲」から。

 そのタイトルからもわかるとおり、本書は以前発売されこのブログでも感想を書いた「怪獣文藝」の続編。「怪獣文藝」は純然たる怪獣小説というよりは、「怪獣をテーマとした怪談」が中心で普通の(?)怪獣ファンにとっては心から楽しめるかどうか微妙なところでしたが、続編となる本書ではより「怪獣小説」という言葉から連想されるように怪獣と人間との死力を尽くした戦いを描くことに重きを置いた作品が収録され、より怪獣ファン向けのアンソロジーに仕上がっています。序文で前作と今作の違いを「エイリアン」と「エイリアン2」に例えていますが、これこそ最もわかりやすい喩えかと思えます。

 読み始めていきなり驚かされるのは、樋口真嗣監督が二十五年前、東宝作品「ミカドロイド」に参加した後に自ら書いた怪獣映画「怪獣二十六号」の企画書。結局作品化はならなかったわけですが、本人が述懐する通り「フランケンシュタイン対地底怪獣」「サンダ対ガイラ」のような身長設定が抑えられ人喰いの習性を持つリアリティのある怪獣の登場する怪獣映画に対する敬意に満ちており、ここから後の平成ガメラシリーズのギャオスにつながっていくのかと思うと感慨深いものがありました。今からでも遅くはありません、映画化希望。

 これらに続く小説も力作ぞろい。特にお気に入りは大倉崇裕氏の「怪獣チェイサー」。山本弘氏の「MM9」シリーズのように怪獣の出現が恒常化し人類がそれを撃退する体制が整った世界を舞台に、対応如何によって甚大な被害をもたらす怪獣が出現したことにより、タイムリミットが近づいてくる中で決断を迫られる怪獣予報官の緊張感と、怪獣の巨大なスケール感をありありと想像させる描写が秀逸です。一方、その山本弘氏はといえば「MM9」シリーズとは全く異なり、20世紀のアフリカを舞台に、邪教集団に捕らわれ彼らが神と崇める怪獣の生贄にされた少年が、生き残りをかけた決死の反撃に出る物語で、こちらも古き良き冒険小説のようで読んでいてワクワクしました。こうしたストレートな作品のほかにも、園子温氏の映画監督を志望しながら高円寺でくすぶっていた頃を描いた私小説のような作品もあって、怪獣という存在がもつ文芸作品のテーマとしての懐の深さを感じることができるでしょう。