BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

日本怪獣侵略伝 -ご当地怪獣異聞集- 感想

 怪獣小説アンソロジー感想、「怪獣文藝の逆襲」に続いては「日本怪獣侵略伝 -ご当地怪獣異聞集-」。まず説明しますと「ご当地怪獣プロジェクト」というのがあって、下記がその公式サイト。

 ご当地怪獣 公式サイト

 「なんだ、梨の妖精みたいなもんか」などと侮るなかれ。まずこのアンソロジーの冒頭に掲げられた、プロジェクトの企画、キャラクター原案を担当する寒河江弘氏の言葉に心を打たれました。

 「今の怪獣映画研究本や怪獣フィギュアは全て過去の遺産の食いつぶしだ!」
 「輸入品のKAIJUで君は満足か?」
 「新しい国産怪獣映画をもう待ってられない! ならフィギュアから先にどんどん作ってやれ!」

 いやはや、この攻めの思想には怪獣ファンとして襟を正される思いでした。こんな序文の気合に劣らず、内容の方も村井さだゆき氏、小中千昭氏、會川昇氏、さらには上原正三氏といったウルトラシリーズの参加経験のある執筆陣と、開田裕治氏、岡本英郎氏、池谷仙克氏といったこれまた著名なデザイナー、イラストレーターを挿絵に迎えた本気ぶり。縄文時代と現代の男女の物語が交錯する「ヨビコの文様」。小中千昭氏が浅草十二階をテーマに得意のホラーテイストで送る実相寺監督風の「十二階幻想」。怪獣版吉本新喜劇「新喜劇の巨人」。南総里見八犬伝がブームを迎える文政年間を舞台とした「南総怪異八犬獣」。幼少時代の経験によって鬱屈した男の最期を描く、読む人を選びそうな「女は怪獣 男は愛嬌」。そして沖縄の少年が「海の神様」と呼ぶ怪獣が起こす70年越しの奇跡を描いた「ヒーカジドン大戦争」。どれもこれも、一見するとイロモノに見えかねないご当地怪獣が、筆と絵の力によってゴジラガメラといった有名怪獣にもひけをとらないほどの存在感を見せてくれています。まぁ、「新喜劇の巨人」に関して言えばイロモノであることを承知の上であえてイロモノ臭を全開で書いているようですが(笑)。

 思えば初代ゴジラは大戸島で荒ぶる神として祀られていましたし、バランは婆羅陀魏山神として信仰を集めていました。怪獣と民俗学のかかわりについて既にいくつもの著作が発表されているとおり、怪獣とは本来土俗的な存在であり、地域と密着した「ご当地怪獣」という発想は新たな怪獣を生み出す手法としてむしろオーソドックスなものなのかもしれません。この小説を機に、このプロジェクトがさらなる展開を見せることに期待しています。