BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ 感想

 マーベルコミックのヒーローたちの活躍を同じ世界観で描くマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の最新作。世界の危機を幾度も救ってきたヒーローチーム・アベンジャーズですが、同時にその活動に伴って市民にも大規模な被害がもたらされてきたことで、彼らを危険視する声が拡大。その解決策として国連はアベンジャーズを国連の管理下に置き、承認なしの活動を禁ずる「ソコヴィア協定」を提唱。アイアンマンことトニーがこれを受け入れる姿勢を示したのに対し、キャプテン・アメリカことロジャースは自分たちの行動は自分たちの責任において自分たちで決めるべきだとしてこれに反対。さらにウィーンでの協定調印の会場を狙った爆弾テロが発生し、その犯人としてロジャースの親友であるバッキーが指名手配に。アベンジャーズのリーダー格2人の対立は、やがてチームを二分しての内紛へと発展してしまうことに・・・。

 MCUも今回の作品で「フェイズ3」へと突入しましたが、その先端を切る作品がいきなりヒーロー同士の大喧嘩とは。題名こそキャプテン・アメリカですが、ソーとハルクを除くアベンジャーズ総出演の豪華な作品。語りたいことはいろいろありますが、まずはアベンジャーズと初めて絡むことになった3人のヒーローから。

 一つ前の作品でデビューを飾った私のお気に入りの新顔ヒーロー。前作でひょんなことから面識を持ったファルコンを通じて、チーム・キャップの助っ人として招集されることに。「アントマン」のスタッフクレジットの後に流れたワンシーンがそのまま今回のワンシーンとなっていて、「なるほど、こうつながるのね」とうなずきました。アントマンスーツとピム粒子はピム博士の所有物なので、ラングが勝手にアベンジャーズと関わることはできないだろうからどういう風につなげるのかなと思っていたのですが、今回はトニー率いる陣営と戦うことになると聞いて、かつてトニーの父とS.H.I.E.L.Dに勝手に研究を利用されかけたことを根に持っているピム博士がゴーサインをだしたんでしょうね、おそらく。他のアベンジャーズの面々と違って基本的には一般人(離婚歴、前科アリ)なので、キャップとの初対面では握手をしたり体を触ったりとはしゃぎまくり。基本的に深刻なムードのまま進行する物語の中にあって、その素人くさいリアクションが一服の清涼剤となってますね。一方でチーム・アイアンマンとの戦いでは自身と他の物体の縮小・拡大能力をフル活用し、チーム・アイアンマンには彼の存在を知る者が一人もいなかったこともあり、チーム・キャップの秘密兵器としての役割を存分に果たしていました。アリの使役が見られなかったのが残念ですが(あれは潜入工作向きの能力ですからね)、その代わりに今回初披露となる驚きの新能力を見せることに。前作を見た人なら必見です。

 今回が初登場となるチーム・アイアンマンの助っ人その1。「エイジ・オブ・ウルトロン」で舞台の一つとなったアフリカ奥地の国・ワカンダの王。ワカンダはキャップの盾やヴィジョンのボディにも使われている希少金属ヴィヴラニウムの産地。その国の王子だったティ・チャラは、王であった父をウィーンでのテロで亡くし、王座を継ぐとともに一族に代々伝わるクロヒョウを模したヴィヴラニウム製のスーツを身にまとったヒーロー「ブラックパンサー」として、指名手配されたバッキーを狙うことになるのですが・・・。とにかくスーツのデザインと、まさにクロヒョウのごとくしなやかな体術がかっこいい。ストーリー上でもかなり重要な役どころで、特にラストで彼の下した決断は彼がキャップにも勝るとも劣らない、一国の王にふさわしい高潔な人間であることを示しており、非常に男前。フェイズ3では彼が主役の映画も公開予定なので、今から楽しみです。

 ご存じ地獄からの使者・・・ではなく、あなたの親愛なる隣人。ブラックパンサーと同じく今回初登場のチーム・アイアンマンの助っ人その2。アイアンマンらと並ぶマーベルコミックの顔ともいえるヒーローでありながら、今までは別の映画会社が権利を持っていたためにMCUには登場できませんでしたが、今回その権利をマーベルが買い取ったおかげで晴れて初参戦。当然今までに作られたスパイダーマンの映画とは設定が一新されていますが、何といっても今回驚いたのは新たにピーター役に起用されたトム・ホランドの見た目。彼は現在19歳だそうですが、どう見ても中学生ぐらいにしか見えない「ティーンエイジャー」という言葉がピッタリくる容姿で「今度のスパイダーマンはこんなに若いのか!」と驚きました(ついでにメイおばさんも若くで美人で驚き)。その容姿に合わせてか、トニーに戦う理由を聞かれたときの「困っている人を助けたい」という言葉や、戦いながらバッキーの義手やファルコンのウィングに興味を示す姿には若者らしい純粋さと好奇心が出ていましたね。同じニューヨーク出身のキャップ(ピーターはクイーンズ、キャップはブルックリン)とは、年季の違いを見せつけられることに。こちらも主役の映画が予定されており、若さ前回の新たなスパイダーマンの活躍が楽しみです。

 さて、最初にも書きましたが今回の映画の軸となるのはアベンジャーズのリーダー格としてチームを引っ張ってきたキャップとトニーの対立。キャップは最初はアメリカ軍に所属していましたが、50年間氷の下で眠っている間に当時の戦友たちはいなくなり、目覚めてから新たに身を置いたS.H.I.E.L.Dも実はヒドラに乗っ取られていたことが明らかになって自ら潰すことに。常に組織に身を置きながらも、組織に身をゆだねることの危うさを経験から理解してきたからこそ、他者に行動を委ねず自ら責任を持って自分の行動を決することにこだわるキャップ。一方のトニーは対照的に典型的な個人主義者ですが、その「個人」として「アイアンマン」からの彼の行動を振り返ると、後悔の連続であることがわかります。軍需産業で懐を潤す実業家として登場した彼は、テロリストに拉致されて兵器開発を強要されたことで、それまでの過ちを悟り軍需産業をきっぱりと捨てて自らもアイアンマンとなってヒーロー活動を開始。しかしその後も死の危機が訪れて自暴自棄になったり、スーツ依存症になって大量のアイアンマンスーツを作ったり、極めつけにはウルトロン誕生のきっかけを作って世界を滅ぼしかけたり・・・と、過ちと反省の繰り返しの人生。なまじ天才であるばっかりにやらかすミスも半端なものではなく、こんな人生を送ってきたら、自分を信じられなくなって誰か他の人に行動を決めてもらいたい、監視されたいと思うようになるのもわかります。これまでの映画で描かれてきたキャップとトニーのそれぞれの人生、その違いが決定的な差となって表面化し、ついにはアベンジャーズを二分した戦いへとつながっていく、これまでシリーズを積み重ねてきたからこそ描けるしっかりとした構成の物語に唸らされました。ラストに至る過程は、個人的にはブラッド・ピット「セブン」を見て以来の衝撃の展開で、とてもここでは書けません。終始重苦しい雰囲気の作品ですが、救いとなるのはラストシーンで「キャップとトニーの友情はまだ完全に断ち切られたわけではないんだな」と思えることですね。とてつもなく衝撃的な、しかしそれゆえにこれ以上ないぐらいのスタートを切ったMCUフェイズ3。今後も目が離せそうにありません。