BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

スパイダーマン ホームカミング 感想

 「キャプテン・アメリカシビルウォー」にて、チームアイアンマンの助っ人としてマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)での鮮烈なデビューを果たしたマーベルの大人気ヒーロー、スパイダーマン。彼を主人公とした映画「スパイダーマン ホームカミング」が公開されたので、早速見てまいりました。例によってネタバレを少し含みますので、未見の方はご注意を。

◆ピーター・パーカー/スパイダーマン
 クモの能力と超人的な身体能力を武器に戦うヒーロー。これまでのマーベル作品ではそれぞれのヒーローの誕生の経緯を映画をまるまる一本使って描写してきましたが、クモに噛まれて能力を得た経緯や、彼にヒーローの道を歩ませるきっかけとなったベンおじさんの死などについてのエピソードはさりげなく語られるだけにとどまり、あくまでMCUにおけるスパイダーマンの最初の物語を描くことにこだわっています。基本的に平均年齢が高いMCUのヒーローたちの中にあって、彼の特徴は何といっても15歳という飛び抜けた若さ。ヒーローとして自警活動を行う一方で、私生活ではハイスクールに通うごく普通の学生であり、イレギュラーな事件の発生で大事な予定をすっぽかさなければならなくなることもしばしば。専業ヒーローとしてヒーロー活動に専念できている他のヒーローと違う、高校生とヒーローという二足の草鞋で活動するが故の彼の苦労にはつくづく同情したくなります。
 映画の内容も、その若さゆえに背伸びしたくて仕方がない若者としての彼の特徴を最大限に生かしたもの。憧れのヒーローであるアイアンマンことトニーに、自分はもっとやれると認めさせるために張り切りすぎた結果、彼はある大きな失敗を犯してしまい、トニーにスーツを取り上げられてしまうことに。例えば平成ライダーの劇場版だったら、劇場版限定の新フォームを大きなウリとするところを、今回の彼の映画ではその逆に、スパイダーマンとしての自警活動を始めた頃の自作のかっこ悪いスーツで強敵との決戦に臨むことに。そこにはトニーが彼に言った「スーツを着なきゃ何もできない人間にスーツを着る資格はない」という、日本のヒーロー以上に変身後のヒーローではなくヒーロー自身の人間性や精神性に重みを置くアメリカのヒーローの思想が強く表れており、この言葉を胸にほとんど裸一貫で強敵に立ち向かうピーターの姿には、胸を熱くさせるものがありました。

◆トニー・スターク/アイアンマン
 ご存じ、良くも悪くも天才なスターク社の社長にして有名ヒーロー。前回の戦いでピーターをスカウトした張本人であり、今回の映画では先輩ヒーローとして彼を見守る役回り。これまでの映画で幾度となく大きな失敗を繰り返してきた彼にそんな役が務まるのかと思いたくなりますが、むしろ彼のような失敗を重ねてきた人間だからこそ務まるところもあるのでしょう。前述のピーターに言った言葉も、「アイアンマン3」でスーツ依存症に陥った過去がある彼だからこそ言えた言葉。アイアンマンとしての活躍は、中盤ピーターが起こした失敗の収拾をつけるために出動した時だけですが、その代わりに彼がピーターに提供した無駄に高性能なギミック満載のスパイダースーツが、映画を存分に盛り上げてくれます。

◆エイドリアン・トゥームス/ヴァルチャー
 今回ピーターの前に立ちはだかる強敵。攻撃にも転用できる巨大なファンを備えた可動翼を装備し、高速で自在に空を飛びまわる怪人。もともとは普通のスクラップ業者で、「アベンジャーズ」でのチタウリとの戦いで被害を受けたニューヨークの復興事業を州から請け負っていましたが、トニーが政府と合同で設立した復興部門に仕事をとられ、その後は回収したチタウリやウルトロンの軍団のスクラップを材料に独自に開発した武器やツールを密売する稼業に手を染めることに。日本で言うなら下町の町工場の工場長が小さな悪の組織の首領になったようなもので、悪事に手を染めたのも家族や部下を養うためであり、アベンジャーズや警察にかぎつけられないようにこそこそと慎重に稼業を運んできたというところも、今までのMCUに出てきたヴィランたちとは一線を画します。いわばハイテク強盗団のボスなのですが、ただまぁ回収したハイテクスクラップと普通の電子部品との組み合わせからあんなすごい武器や道具を開発できる技術力があるんだったら、何も悪事なんかに手を染めなくてももっと合法的にうまく稼ぐやり方がいくらでもあったように思えてならないのですが・・・。

 デビュー作から宇宙規模の敵と対決することになったドクター・ストレンジとは異なり、「あなたの親愛なる隣人」の名に相応しい、地に足のついたスパイダーマンの活躍を描く物語。話のスケールそのものは小さくとも、一人の若者の青春を描く映画であり、一人のヒーローの成長を描く映画として、文句のつけようのない傑作でした。