BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

GODZILLA 怪獣惑星 感想

2014年のレジェンダリー版ゴジラ、昨年のシン・ゴジラと、FINAL WARSからの長い沈黙から息を吹き返したように目覚ましい動きを見せているここ数年のゴジラ映画。そこにさらに、ゴジラ映画としては初めてのアニメーション作品となる三部作が始動。その第一作が公開されたので、早速見てまいりました。例によってネタバレを含みますので、未見の方はご注意を。

 1999年夏のニューヨークでのカマキラス出現を皮切りに、次々に出現した怪獣によってそれから半世紀の間に大きく生存権を縮小させられた人類。中でも人類だけでなく怪獣にも牙を剥く最強の怪獣・ゴジラの脅威はすさまじく、地球に相次いで来訪した宇宙人エクシフ、ビルサルドの助力も空しく、ついに人類は地球を捨てて宇宙への脱出を余儀なくされることに。それから20年。移住先として予定していた惑星が人類の居住に適さないことが判明し、恒星間移民船アラトラム号はついに地球への帰還を決定する。しかし長距離ワープの影響によって脱出から2万年が経過した地球は、ゴジラを頂点とした生態系に支配された星へと変貌していた・・・。

 ・・・とまぁ、のっけから歴代ゴジラシリーズの中では類を見ないほど絶望的な状況から始まったこの物語。今まで何度となくゴジラによって人類が窮地に立たされるところを見てきましたが、地球から追い出されるというれっきとした敗北にまで追い込まれたのはこれが初めてですね。ここまで来るといっそのこと、ゴジラの方を応援したくなります。なにしろ人類の方は初代ゴジラの時のように完全にゴジラに勝利したことがあるにも関わらず、ゴジラの人類に対する明確な勝利が描かれた映画は一度としてないのですから。一度ぐらいはそういう映画があってもいいと思うので、今回のシリーズにはかなり期待しています。

 さて、移動するだけで大災害となるギャレゴジ、口だけでなく背中や尻尾の先からも放射線流を発射して見る者を戦慄させたシンゴジと、近年のゴジラは災厄としてのレベルアップもすさまじいものですが、今回のゴジラもまたさらに輪をかけて恐ろしい存在に。そもそもその正体は動物ですらなく植物を起源とした生命体であり、身体は強い電磁気を放出する金属に酷似した性質の繊維で構成。これによって全身が電磁コイルと化し膨大な電力を蓄えており、電磁気による電波妨害、全身を包む電磁シールドによる絶対的防御力、そして口から放つ高加速荷電粒子ビームに相当する熱線と、攻防共に人類の想像をはるかに絶する能力を備えています。ちなみに熱線については2000年代以降の作品ではとっておきの必殺技としてあまりゴジラが多用しない傾向が強かったですが、今回のゴジラは平成ゴジラほどとまではいかないけれど結構バンバン吐き出します。航空機をいとも簡単に撃ち落とすあの異様な対空攻撃精度も健在。しかもこいつは人類に徹底的に無関心だったギャレゴジとは対照的に、2万年ぶりに人類が地球に戻ってくるや早速攻撃を仕掛けてくるほど、やたらと人類に対して敵対的。もはや絶望という概念がかたちとなって地響きを立てながら歩いたり熱線を吐いたりしてきているようなもの。正面から見た顔があまり凶暴ではない(せりだした眼窩が眼に覆いかぶさって見ようによってはおじいちゃんにも見える)のも、逆に恐ろしいですね。

 一方、当然主人公は人類なのですが・・・正直、これほど人間に感情移入できない作品も珍しいですね。そもそも物語の前章を描いた小説「怪獣黙示録」で、怪獣によって危機に瀕しながらもなお国家間のいざこざを続け、そのあいだにあれよあれよと怪獣に生存圏を奪われ、遂には地球から追い出されることになったという情けない経緯が描かれているのを読んでいるので、そうして一度は地球から追い出された主人公たちがのこのこと戻ってきて、「ゴジラを倒して人類の尊厳を取り戻す」だの「地球を返してもらう」だの叫んだところで、どうしても薄っぺらく聞こえてしまうのです。地球は自分たちのものであるというその驕りによって怪獣に追い出されたというのに、何も学んではいない。まぁおそらく制作側も意図して人類をそのように描く演出をとっていて、だからこそ主人公が叫ぶ薄っぺらい希望をせせら笑うかのように、ゴジラが圧倒的な暴力によって絶望とは何かを叩きこんでくる様にカタルシスを覚えるのですが。

 最初に書いたようにこの映画は全三部作予定の一作目。というわけで、かいつまんでしまえばこの映画は一時間半をかけた壮大な前振りと言ってしまっても差し支えないと思いますが、前振りとは言っても怪獣王の怪獣王たる暴れぶりは存分に見られますのでご心配なく。来年5月公開予定の2作目にも十分期待が持てます。