冥黒王たちから全ての賢者の石を奪い取り、いよいよその悲願である黄金郷の錬成を開始。そして宝太郎たちはそれを阻止すべく、グリオンに最後の決戦を挑むことに。
というわけで、いよいよ最終回です。ラケシスの死に悲しむ間すら与えず、空に浮かぶクソデカ黄金ルービックキューブとほとんど黄金化しかかったミナト先生というなかなか腹筋に来るものを見せてきたグリオン。いよいよその夢である世界総黄金化計画を開始するのですが、なんとなくあのクソデカルービックキューブから黄金の波動か何かをブワーッと放って一気に世界まるごと黄金に変えるようなイメージを持っていたのですが、現実にお出しされたのは大量のドレットルーパーがスプラトゥーンをやるという、意外と地道な作業。これで世界中黄金に変えるつもりだったのなら、一体何年かけるつもりだったんでしょうか。
まぁグリオンがこんな悠長なことをしてくれたおかげで、宝太郎は決戦に臨む前にお母さんに会いに行く時間を持てたわけで。「普通の母親なら絶対に止める」と言いながらも、息子の意を汲んで送り出す、まさにヒーローの母親の鑑でした。お母さんの作ってくれたおにぎりで腹ごしらえを済ませ、いよいよグリオンに決戦を挑む錬金術師たち。りんねたちにドレットルーパーの相手を任せ、ルービックキューブに突入する宝太郎。そこではその少し前にグリオンに挑みかかっていたクロトーが返り討ちにあっており、宝太郎に「絶対に望みを叶えて見せろ」と彼女らしい檄を飛ばし、アトロポスとラケシスの幻を見ながら宝太郎の腕の中で消滅しました。こうして、冥黒の三姉妹は全員が消滅。人を殺してしまっていたアトロポスはともかく、ラケシスとクロトーは最後まで生き残るんじゃないかと予想していた私にとってはなかなか重い結末でしたね。ただ、その結末に至るまでの間にアトロポスは「友」、ラケシスは「恋」、クロトーは「家族」と、それぞれが心の中で求めていたものに気づくことができたというのは、グリオンの求めるままに動くだけの人形であった頃の彼女たちには考えられなかったことであり、ラケシスだけでなくアトロポスもクロトーも、最後は人形ではなくそれぞれの望みを抱く人間として最期を迎えることができたのは、せめてもの幸いと言えるでしょう。
そんなクロトーの最期を蔑むかのように「形のないものに縋りつくから弱くなる」と吐き捨てるグリオン。それに対して、「弱くたっていい。皆で必死に支え合って何が悪い」と突き返す宝太郎。双方変身し、ついに最後の決戦が幕を開ける。グリオンの変身したエルドは全てを黄金に変える力をもってニジゴンや他のケミーを次々に黄金に変え、ニジゴンの力を悪用して世界の黄金化を加速。ガッチャードのドライバーを破損させて変身解除に追い込み、ついには宝太郎をも黄金化してしまう。これで邪魔者はいなくなったと勝ち誇るグリオン。だが…なんと、黄金化したはずの宝太郎がじりじりと近づいてくる姿を目にして、その笑いは一瞬にして凍りつく。さしものグリオンも恐怖を覚えた様子で再度黄金化をさせようとするも、仲間たちの思いを乗せた宝太郎にもはやそんな攻撃は通じず、逆に自力で黄金化を破った宝太郎の生身の拳を顔面に喰らって殴り倒されることに(後の公式からの情報によれば、グリオンの黄金化は中身まで完全に黄金に変えるものではなく、要するに金メッキのようなものとのこと。そりゃダメだわ…)。さらに勢いの止まらない宝太郎はドライバーを再錬成しケミーたちを復活させ、101体のケミーすべての力を結集した最終フォーム・アルティマススチームホッパーに変身。引きはがした黄金とドレットルーパーたちごとエルドを大気圏外に打ち上げ、黄金の破片とドレットルーパーを材料になんと「地球」を錬成し、そこにエルドを叩き落す。未来の大物錬金術師が巻き起こす、自分の常識から完全に外れた規格外の錬金術の前に半狂乱に陥ったエルドは怒りのままにライダーキックを繰り出すが、仲間たちの思いと全てのケミーとの絆を得たガッチャードの敵ではなく、ライダーキック同士の激突に競り負け変身を解除。皮肉にも、彼が焦がれた黄金とは程遠いただの土くれと化して崩れ去る最期を遂げることに。黄金の不変性に憧れたグリオンでしたが、彼の最期が示すように、「土は土に、灰は灰に、塵は塵に」という聖書の言葉の通り、所詮この世に真に不変なるものなどないのです。たった一人で黄金の持つ偽りの永遠の静止に縋ったグリオンが、仲間たちと共に前へ進むことをやめない宝太郎に勝てないことは自明の理だったのです。さらばグリオン。悪役として徹底的にヘイトを稼ぐ一方、底の浅い価値観から来る変な笑いも提供してくれた、ラスボスとしてとても稀有な存在でした。
こうしてガッチャードの勝利によってグリオンの野望は打ち砕かれ、ひとまず世界に平和が戻ってから数ヶ月後。レジェンドの世界で相変わらず宝石風呂に浸かっているカグヤ様と宝太郎との会話でエピローグが語られることに。錬金アカデミーには宝太郎たちの活躍を知った新たな錬金術師の卵たちが入学する一方、りんねとスパナも新たな目標を見つけて邁進中。一方、あれほどケミーを処分しろと騒いでいた醜い大人連中は、特に記憶操作をしたわけでもないのになぜか沈静化。宝太郎曰く「大人は都合の悪いことは勝手に忘れていっちゃうみたい」とのことですが、そんないい加減ことでいいのか…。まぁ、これまでこの番組でさんざん描かれてきたこの世界の人間の民度の低さと人間性の底の浅さを考えれば、連中がそんな悪魔超人並みの記憶力しか持ってなくても不思議ではありませんが…。そして宝太郎がグリオンとの戦いの中で錬成した新たな地球は、ケミーたちの住処となることに。この新たな地球が人間の生存に適したものか調査を始める宝太郎達。これまでと同じように、人間とケミーが共存できる世界を目指し、宝太郎は進み続ける…。
地球を一つまるごと錬成してしまうとは、未来の、というよりは既に大物錬金術師ですね宝太郎。しかも最初からケミーの住処にするつもりで作ったとかではなく、あくまでノリと勢いで作ってしまったというとこも含めて。肝心の人間とケミーの共存問題に対する答えとしては、まぁこれが妥当なところでしょうね。グリオンとの決着をつけた残りの尺で丸く収められるはずもなく、今はどうにもならないけど、とりあえず新しく作った地球にケミーを住まわせてじっくりやっていく、と…。ゼロワンとかでもそうでしたけど、悪の組織を倒して世界に平和を取り戻すのとは別の、現実にも人種問題や移民問題のようなかたちで存在し解決に至っていない「自分たちと異なる他者との関係」の問題の解決をヒーローに掲げさせること自体の是非については、一考の余地があると思うんですよね。どうせ誰にとっても満足のいくような八方丸く収まる答えなど出せないのだから最初から掲げるべきではないというのも、子どもたちも見ている番組だからこそそうした容易に答えの出せない問題がこの世界にはあることを教えることにこそ意義があるというのも、どちらも私の中では理のあることなのですが…。
ガッチャード全体を振り返ってみると、電王やエグゼイドにも負けないぐらい、各話各話の密度の濃さを保ったまま一年間走り切った、という印象がありますね。特に終盤なんかは最終回の直前でマジェードとヴァルバラドの最終強化をやるぐらいギッチギチに詰め込んでいましたけど、だからと言って振り返ってみて、「あの話は削手もよかったんじゃないか」という話が一切ないんですよね。加治木のロマンスもズキュンパイアの騒動もカグヤ様の宝石風呂も、あのバカバカしいスターシャイン星野の話でさえ、無駄な話だったと言うものはこの作品を見続けてきた人にはいないでしょう。そうした物語の全てが、何が起ころうと前へ進むことをやめない宝太郎たちの血となり肉となって、この最終回へと至りさらにその先へと続いていく道を作り上げたのです。冥黒の三姉妹やグリオンも単なる悪役には収まらない魅力がありましたし、例年にも増して一年間の連続ドラマとして非常に満足度の高い作品でしたね。
さて、物語の最後ではおまけ要素的に、宝太郎とカグヤ様が次なるライダーの世界を訪れていましたが、果たしてこの「おかしな仮面ライダー」、どんな物語を見せてくれることか…。