BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

仮面ライダーガヴ 最終回 感想

 エージェントの大群を打ち破り、二度とグラニュートが人間界に干渉できないよう扉の間の破壊を行うラキア。回収したヒトプレスを運びつつ、追いすがるジープとリゼルと対峙する絆斗。そして、ランゴとの決戦に臨むショウマ。それぞれにとっての最期の戦いが始まる…。

 

 ライダーのラストバトルとしては珍しく、3人のライダーがそれぞれの場所で最期の戦いを迎えることになった最終回。ジープと取っ組み合いのまま人間界に戻った絆斗は、さらに父の仇を狙うリゼルまでが加わり、二体の敵と対峙することに。数の上では不利な状況にも関わらず全く臆することなく、それどころかジープとリゼルの絆が本物であることを悟り、向かってこられたら倒すしかなくなるのでグラニュート界に帰れと促す絆斗。2人を相手にしても全く負けるつもりはないという意志とともに、母の仇に情けをかけたのと同じ、心の成長を感じますね。しかし自分だけならまだしも、父の敵を討ちたいというリゼルの願いを叶えることをジープは選び、戦闘開始。2対1という状況(とはいっても、明らかにリゼルの動きは戦い慣れしていませんでしたが)ながらも、これまでに培った戦闘経験と持ち前のド根性で互角以上の戦いを繰り広げ、フラッペカスタムの凍結能力で足場を凍らせ2人の機動力を封じ、頭突きも交えた泥臭い接近戦に持ち込み優位に。そしてついに絆斗が必殺技を放ったその時、ジープがかつてシータにされたときと同じようにリゼルを身を挺してかばい、必殺技が直撃。ジープの中でシータと同じぐらいリゼルが大切な存在となっていたからこその行動でしょうけど、死の間際にジープが見たのはシータの幻影だったというのは、リゼルにとっては気の毒ですね。父のみならず夫をも失い、泣き崩れるリゼル。そんな彼女に何も言葉をかけず、ついに自分が「奪う」側に回ってしまったことを噛みしめるかのような悲しげな表情で一瞥をくれ、そのまま立ち去る姿が印象的でした。

 

 一方、遊園地でランゴと対峙していたショウマは、彼に「ストマック家って何?」と、兄にとっての幸せは何かと問いかける。これ、私もずっと気になっていたんですよね。父を手にかけ、兄弟たちを失い、残った最後の兄弟であるショウマを今まさに倒そうとしている彼にとって、「ストマック家」とは何だったんでしょうか。なまじ長男として生まれたばかりに、自分の人生と家とを分けて考えることができず、ストマック家の中で最も家というものに人生を縛られてしまったのではないでしょうか。ストマック家の中で、一番幸せというものから遠い場所にいたのがランゴ兄さんだったのかもしれません。そして始まる、兄弟最後の激突。既に一度主人公と戦って敗れた敵がラスボスという珍しい展開となりましたが、(さすがに前回は手を抜いていたとかではないでしょうけれども)黒い翼を生やす新たな能力によってゴチポッド内のゴチゾウたちを消滅させ、かつて敗北を喫したオーバー、マスターモードに対処。しかしショウマも伊達にここまで戦い抜いてきたわけではなく、全てのフォームを駆使しながら確実にランゴの戦力を奪っていく。戦いは夜にまでもつれ込み、両者疲労困憊。そしてついにショウマを変身解除に追い込んだランゴでしたが、ショウマはなおも立ち上がり、これまでもグラニュートたちに向けてきた「最後の審判」を問いかける。それを一蹴しトドメの一撃を加えようとするランゴでしたが、ショウマがポッピングミで変身と同時に必殺技を叩き込み、断末魔の叫びさえ上げることなくランゴは爆散、無数の白い羽を残して消滅したのでした。そしてその場に、自分が人間界に来て初めて出会ったお菓子であり、変わることのできたきっかけであるグミの袋を手向けのように置いて立ち去るショウマ。ショウマ、絆斗、ラキアと、変わることのできた者は生き残り、変わることのできなかったストマック家は全滅した。変わることができるかどうかが運命を決するというこの鉄則は、最期まで貫かれていましたね。

 

 そして3ヶ月後。ラキアは扉の間の破壊に成功したものの、それによって人間界とは行き来することはできなくなり、ショウマたちとは離れ離れに。絆斗は闇菓子事件を記事にすることを自らに使命として課してジャーナリスト活動に邁進中。そしてショウマは、グラニュート界に帰れなくなったグラニュートたちを救うため、グラニュートも人間もどちらも食べて幸せになれる「光菓子」の開発に奮闘中。駄菓子屋さんにも味見を求めていましたけど、母さんならどんな味のお菓子が好きだったかと口にするショウマに「ショウマ君が作ったお菓子なら何でも美味しいって言ってくれるんじゃないかな」と答えたあたり、駄菓子屋さんも妹の消息とショウマとの関係についておおよその察しはついたものの、あえてそれを口にはしていないようですね。いい落としどころだと思います。

 

 さて、シリーズ全体の総評。ネットでは終盤の意外性や盛り上がりに欠けるという意見を目にしました。確かにエグゼイドやゼロワンのように次から次へと目まぐるしく展開が変わっていった作品と比べると、ガブの場合大きな物語の転換点と言えるのは大統領の登場ぐらいで、大統領が倒されてしまえばあとはランゴとジープとのケリをつけるだけ、という、悪く言えば消化試合的なところがあったことは私も否定しませんし、ガブはそういった展開の意外性に重きを置いた作品ではないと思います。その代わりにこの作品を支えていたのは、「家族」と「幸せ」を巡る徹底した重たいドラマであり、お菓子というポップで甘いイメージのあるものをテーマにしたのも、そうしなければつり合いが取れないからじゃないかとさえ思うほどでした。丁寧に張り巡らされた地獄とも言うべきストーリー展開の一方、菩薩のような幸果さんと、2号・3号ライダーとしては珍しいぐらい反省も謝罪もできる絆斗やラキアのおかげで、これまでのライダーでともすれば陥りがちだった無駄なギスギス展開がほとんどなかったことも、私としては非常にポイントが高いですね。他者との関わりの中でそれまでの自分を変えることのできた者だけが、幸せを手にすることができるというシンプルなテーマに貫かれた本作は、私としては紛れもなく名作だったと思います。