BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

小説 仮面ライダーオーズ

小説 仮面ライダーオーズ (講談社キャラクター文庫)

小説 仮面ライダーオーズ (講談社キャラクター文庫)

 「素晴らしい!! こういうのが読みたかったんだよ、里中君!!」

 ・・・と、のっけからハイテンション会長のノリですが、大満足の内容でした。小説 仮面ライダーオーズ。「3」がキーとなる数字だったオーズ本編にあわせ、この小説も3つの章による三部構成となっています。

 最初を飾るのはアンクの章。アンクを主人公に、800年前にコアメダルとグリードが誕生してから封印されるまでが描かれています。本編では詳しく描かれなかった部分の小説化。まさに私が今回のノベライズ企画に求めていたものですね。コアメダルを生み出し、オーズとなってグリードたちを支配した王も登場。鴻上会長はこの王の子孫らしい、という本編でもちょっと語られた設定が生かされ、言動はまさに会長そのもの。鴻上会長と異なるのは欲望の矛先が「支配すること」へと特化していること。周囲の国に攻め入り、オーズとなって敵軍を蹂躙し次々と制圧していく王の姿はちょっとした衝撃です。アンクと触れ合うことになった盲目の少女が辿る運命も、小説でしかできない残酷さがありますがその分「欲望」というものをより真に迫って描いていると思います。封印され、意識が途絶える寸前、「俺が命が欲しいのかもしれない」と思ったことが最終回でのアンクの言葉につながっているのがいいですね。

 2番目はバースの章。伊達さんの章でもなく後藤の章でもなくバースの章なのは、バースドライバー自体が語り部というあまりにも意外な切り口のため。日本では古来、あらゆるものに魂が宿ると考えられてきた・・・という冒頭の伊達さんのセリフ通り、バースドライバーもプロトバースドライバーもカンドロイドたちもみんなしゃべります。人間にその声は聞こえませんが。とりあえず、本編のバースドライバー音声は中田譲二さんだったのでバースドライバーのセリフはジョージボイスで脳内再生。前半は暴走グリード相手のバースの初陣から伊達さんが後藤に装着者の座を譲るまでをバースドライバーの視点から描いたもの、そして後半は、真木博士によってバースドライバーから生み出されたヤミーとの戦いを描く完全オリジナル。本編の38話で描かれなかった、後藤の初勝利から伊達さんが手術のため旅立つまでの間に起こった出来事ですね。ヤミーを生み出す器にされた影響でバースドライバーの変身機能が働かなくなった原因を「俺がまだバースとしてふさわしくないためだ」と一人合点して山籠もりを言い出す後藤に突っ込むバースドライバーなど全編にわたって笑える内容となっていますが、それもそのはず。最後にこの話自体についての種明かしがされるのですが、それは実際に読んでみてください。あと、後藤がおばあちゃん子だったというのが妙にツボにはまりました。

 そして最後を飾るのはもちろん主人公、映司の章。コアメダルを巡る戦いが終わり、割れてしまったアンクのメダルを元に戻す方法を求めて旅を続ける映司。その中で彼は複数の部族が二つに分かれて泥沼の内戦を繰り広げる砂漠の小国を訪れ、そこで戦火に翻弄される過酷な運命を生きてきた一人の女性と出会います。かつて戦場で仲良くなった少女を救えなかったことで心の奥底に自分の欲望を封じた映司。この章で描かれるのは、オーズとしての戦いを経て一つの答えを得た彼が、あらためて誰かを救うための戦いに挑む姿です。しかし、コアメダルを巡る戦いが終わった今、彼が戦う相手はグリードでもヤミーでも、他の怪人でもありません。

仮面ライダー=本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは人間の自由のために、ショッカーと闘うのだ!

 ライダーファンでなくても誰もが聞いたことのある「仮面ライダー」第一作のオープニングナレーション。ここで注目したいのは、彼は「人間の自由のため」に「ショッカーと」戦うということ。これを仮面ライダー1号ではなく他のライダーに置き換えても、「ゴルゴムと闘う」「グロンギと闘う」「ファントムと闘う」に変わるだけで、仮面ライダーが戦う相手は常に人外の存在か、超常的な力を得て暴走する人間です。では、それらがいなくなったとしたら、「人間の自由」は守られるのか? 残念ながら、答えはノーです。「人間の自由」を踏みにじるのは戦争であり犯罪であり差別であり、ほかならぬ人間自身なのですから。映司が他のライダーと違うのは、彼は本気で世界中の人間を助けたいと思っていること。自分の住む街の人々を守るために戦う翔太郎や、学園の平和と友達を守るために戦う弦太郎とは違います。悪の怪人がいなくなった後、人間の自由のため、仮面ライダーは何と戦うのか? 本気で世界中の人を救うには、彼は否応なくこの問いに対して向き合わなければなりません。そしてこの章で、彼は一つの行動に出ます。これが仮面ライダーとして正しい行いなのかどうかは、人によって意見の分かれるところだと思います(ウルトラマンがやってはいけないことだとは思いますが)。ですが、怪人との戦いを終えた仮面ライダーの新たなる戦いのひとつのかたちとして、非常に思わせるところの大きい一編であることは確かですね。

 時に残酷なまでのシリアスな展開と、コントもかくやという笑いが混然一体となっているのが特徴的な小林脚本。オーズは特にそれが顕著な作品だったと思いますが、著者の毛利氏は小林氏に代わってその魅力をもった新たなオーズの物語を届けてくれたと思います。ハッピーバースデイ!!