BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

NHKスペシャル「運命の一枚」を見て

NHKスペシャル

 昨日の深夜、再放送されていたNHKスペシャル沢木耕太郎 推理ドキュメント 運命の一枚 〜"戦場"写真 最大の謎に挑む〜」を見ました。日曜の本放送も見ていたのですが、こたつで横になりながら見ていたのが災いし、見事に寝オチしてしまったため。

 伝説的戦場カメラマン、ロバート・キャパの代表作「崩れ落ちる兵士」。無名のカメラマンであったキャパの名を一気に押し上げたこの一枚の写真の謎について、作家の沢木耕太郎氏が迫るというもの。

崩れ落ちる兵士 - Wikipedia

 ネガすらも残されていない「崩れ落ちる兵士」ですが、キャパの遺品から発見された同じ日、同じ場所で撮られた写真から、いくつもの真実が明らかとなりました。まとめると以下の通り。

・記録によれば撮影された日、その場所では、戦闘はなかった。つまり、写真は演習中の兵士たちを写したもの。
・したがって写真の兵士は撃たれたのではなく、斜面を駆け下りる時に滑って転んだだけ。
・しかも撮影したのはキャパではなく、すぐ近くで撮影していた恋人でカメラマンのゲルダだった。

 世界中にセンセーションを巻き起こしたこの写真が、実はただすっ転んだ兵士を写しただけだったとは。しかも撮ったのがキャパではなくその恋人だったとは、さすがに開いた口がふさがりませんでした。写真は真実を写すものではなく、言葉と同じようにただ事実の断片を切り取るものに過ぎない。解釈するのはあくまで人間であり、時にはこの写真のように全く真実とはかけ離れた解釈を招いてしまうことがあるということがよくわかりました。

 何も言わなければ撃たれているようにしか見えないこの写真、当然キャパもそれが「ウケる」だろうことを見越して写真誌に送ったのでしょう。もし彼がこの写真だけで終わったカメラマンだったら、自分が撮ったものですらないまぎらわしい写真で名声を得たという謗りを受けても仕方なかったでしょう。しかし、写真は本人の予想をはるかに超えた反響を巻き起こし、気付いたときには真実を言い出そうにも言い出せないところにまで至ってしまった。しかも、写真を撮ったゲルダはその後まもなく取材中に事故死してしまう。二重の意味で追い詰められたキャパが救われる道はただ一つ、今度こそ自分の手で、本物の戦場の真実をフィルムに収めることだけだった。そして彼は1944年6月、ノルマンディー上陸作戦最大の激戦地オマハ・ビーチで、見事それを果たしました。偽りの写真で名声を得てしまったことに対する贖罪のように、生涯5つの戦争に従軍し最後は地雷を踏んで死んだ彼が幸福であったのか不幸ではあったのかわかりませんが、偽りの写真で名声を得たことから逃げずに最後まで戦場でシャッターを切り続けることでその過去に決着をつけようとした一点だけを見ても、やはりキャパは立派な戦場カメラマンだったのではないでしょうか。