BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

小説仮面ライダーディケイド 門矢士の世界〜レンズの中の箱庭〜

 講談社キャラクター文庫、ディケイド編。

 内容としては、アギトやキバなどと同じく本編の再構成編。とはいえ、TV本編からのアレンジの度合いはかなり大きいです。最大の違いは、主人公である士の人物造形。小説のタイトルにもなっている通り、この小説での士にはTVとは違いもともと自分がいた「門矢士の世界」があり、彼は自分の世界と様々な仮面ライダーたちがいる別世界を行き来しています。別世界での彼はTV本編と同じく傲岸不遜で自信に満ち溢れた人間なのですが、ひとたび自分の世界に戻れば、自分のいるべき世界はここではないと殻に閉じこもり、カメラのファインダーをのぞき込むことで世界と自分とを隔てることでしか安らぎを得られない、弱い人間です。別世界を旅する理由も、世界同士が融合して消滅するのを防ぐためではなく、いわば現実逃避。この小説は、そんな士が夏海とともに世界を巡り、仮面ライダーたちと出会うことによって自分の弱さと向き合わされ、それを乗り越えるまでの物語です。

 士はやはり9つのライダー世界を巡るのですが、当然尺の都合があり、物語の始まりの時点で既に6つの世界を旅したことになっています。小説で描かれるのは、電王、クウガ、カブトの世界への旅。なぜこの3つの世界なのかは・・・まぁ、この3作品の主役を演じた俳優さんが今どういう立ち位置にいるかを考えれば納得できる気がしますが。TV本編とは違い、どうやらこの世界はオリジナルのライダーたちの世界と同じようです。物語もTV本編とは違って、士がそれぞれの世界で起こっている事件を解決するものばかりではありません。前述のとおりこの小説の士は弱い人間なので、カブトの世界に至っては完璧超人である天道に逆に助けられちゃってます。

 一方、士と同じくTV本編から大きく設定が変わった人物がもう一人。それは、鳴滝。TV本編ではあまりにも行動に一貫性のない迷走ぶりのため、「おのれディケイドォ!!」と叫ぶのが主な仕事のわけのわからんオッサンになってしまった彼ですが、この小説では彼の目的となぜ士を世界の破壊者と呼び憎むのかが明らかになっており、これはいい落としどころに落としたなと思いました。まぁ、彼の場合はもはや迷走しているのがデフォになってしまっているので、これはこれで逆に物足りないのですが。

 正直、TV本編がこんな物語だったらあまり見たくはないのですが、小説としては納得のいくものでした。細かい粗(モモタロス達の互いの呼び名、クウガマイティフォームが剣を使うなど)はありますが、「ディケイドに物語はありません」と公式で言われてしまったディケイドの物語に物語が与えられたことを、喜ばしく思います。