BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

小説 仮面ライダー龍騎

 最後の最後まで発売日の延期、発売順の変更が相次いだこの小説仮面ライダーシリーズ。その結果トリを飾ることになったのが、よりにもよって平成ライダーシリーズ最大の問題作であり異色作である仮面ライダー龍騎というのは、ある意味では象徴的なことであります。

 著者は小林靖子氏とともにTV本編のメインライターを手掛けた井上敏樹氏・・・とくれば、勘のいい方ならもうお分かりでしょう。そう、同じく彼が手掛けたファイズの小説と同じく、この小説でも彼はここぞとばかりにTVではできないことを思う存分やりきっています。具体的には・・・読んで10ページも進まないうちに、蓮と優衣のピロートークのシーンが出てくるので、その先の展開についてはある程度覚悟はできるでしょう(井上氏はこれまでのインタビューで、手掛けた作品によく食事シーンが出てくる理由を「TVではセックスの場面を描けないから」と何度も語ってますし)。

 内容としては再構成ものに入るのですが、TV本編ではなく井上氏がかつて脚本を担当した劇場版の方の再構成・・・リュウガを登場させずに内容を大人向けにした、という感じです。登場人物たちの生い立ちや過去も新たに、より詳しく描かれているのですが、その内容がどいつもこいつもすさまじい。特に浅倉。TV本編ですらいまだに最凶最悪のライダーとして他の追随を許さない怪物のような奴でしたが(宇野常寛氏は「本質的には「ダークナイト」のジョーカーと同じ」とまで評価)、この小説ではもはや怪物という表現ですら生ぬるい、ジェイソンもフレディも裸足で逃げ出しそうな、まさに井上氏の本気を感じさせるキャラとなっております。

 個人的には龍騎という作品がまぎれもない名作、傑作であることは全面的に認めるのですが、これが仮面ライダーか、これがヒーロー作品か、ということになると、いまだにうなずくことはできません。龍騎という物語はTVSPでの仮面ライダーベルデの「人間はみんなライダーなんだよ」という有名なセリフの通り、ヒーローの物語ではなく仮面を被った人間同士がそれぞれの願いや望みや欲望をぶつけ合う、ただの人間たちの物語。今回の小説の登場人物たちでも、美しく死んでいく人間は誰一人いないということが、やはり人間たちの物語であるということを示しているように思えます。