BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

パシフィック・リム

12.11 ブルーレイ&DVDリリース レンタル/VOD 同時開始 11.27 ダウンロード先行発売|映画『パシフィック・リム』公式サイト

 「やっぱりマグロ喰ってるやつはダメだ」と本家東宝からもこき下ろされたエメリッヒ版ゴジラから早15年。とうとうハリウッドの監督とハリウッドの資本によって作られた「本物の怪獣映画」が、海を越えて日本に上陸してきました。

 いやはや、もともと期待していましたがその期待をさらに上回る作品でした、「パシフィック・リム」。正直、ストーリーについてはいかにもハリウッドという域を出ておらず(最終的にはやっぱり核兵器を使う)物語の展開に意外性もほとんどないのですが、これはハリウッドが人型巨大ロボVS怪獣という夢の対決を本気で描いたというところに意義があるでしょう。太平洋の海底に次元の裂け目が出現→そこから出現した怪獣がサンフランシスコを襲撃→さらに続く怪獣の出現に対し人類が一致団結して巨大ロボ「イェーガー」を建造して対抗、という物語の背景についても、主人公のモノローグによる説明だけで潔く終わらせちゃってますし、実際それで十分。

 イェーガーと怪獣の対決は、基本はガチの殴り合い。港でイェーガーと怪獣が互いにコンテナを掴んで殴りあう場面には、人間同士が煉瓦を掴んで殴り合いをするような、「サンダ対ガイラ」にも通じる鬼気迫るものがありました。主役的扱いのアメリカ製イェーガー「ジプシー・デンジャー」の武器は、両腕に内蔵されたプラズマ砲と、肘に仕込まれたロケットを点火させて敵を殴るエルボーロケット、それにほとんどガリアンソードなチェーンソードと、これまた日本人の心をくすぐります。貨客船を棍棒代わりに怪獣を殴ったりもしますけど。

 俳優陣・声優陣の演技もとてもよかったです。特に監督も絶賛したという芦田愛菜ちゃんの演技は素晴らしい。主人公の相棒でヒロインでもあるマコの少女時代、一人街に取り残され追跡してくる怪獣(なぜか「オニババ」という名がついていますが、どうにかならなかったのか・・・)から逃げ惑う短いシーンのみの出演でしたが、実際はブルーバックの撮影で、泣き叫びながら怪獣に追われる表情、物陰に隠れて様子をうかがう表情、そしてイェーガーに救出されて見せる安堵の表情をあそこまで感情をこめて演じられるのは、すごいの一言に尽きます。

 基本的にはロボと怪獣の対決をどう見せるかに注力した作品ですが、香港には怪獣の死体を売りさばく闇のブローカーがいるという設定には大いに興味を惹かれました。ウルトラマンスペシウム光線で怪獣を木端微塵に吹き飛ばし、ウルトラセブンアイスラッガーで怪獣の首や手足をスパスパ切り落としてましたけど、そのあとに残る死体の処理については描かれたことがなかったので、怪獣の死体は糞まで売れる(大量のリンを含んでいるので良質の肥料になる)という設定はこれだけで一つの作品が作れるんじゃないかという魅力を感じました。帰ってきたウルトラマンに登場するツインテールという怪獣は逆立ちしたまま這いずるような特異な体型と「エビのような味がする」という記述が怪獣図鑑にあることで有名ですが、もしかすると誰かがツインテールの死体から肉を切り取って食べたから味がわかってるんじゃないかと、そんな想像までしてしまいました。

 ただ少し残念だったのは、イェーガーと怪獣の対決シーンのほとんどがめまぐるしく動き回るのをアップでとらえた撮り方だったので、迫力はあるのですが怪獣の全体像をゆっくりと観察できなかったところ。どの怪獣の体色も全て暗い灰色のうえ、さらに対決シーンの多くが夜間や嵐の海、海底といった暗い背景なのも、それに拍車をかけてしまっていました。これまでのハリウッド映画の怪物に比べればはるかに怪獣らしいデザインの怪獣なのですが、もっと思い切ってもよかったんじゃないか、と思いました。設定的にはウルトラマンAの超獣とほぼ同じでもありますし。

 いずれにせよ、ハリウッドが本気で怪獣映画を作ったということも意味は大きいですね。ゴジラが最後に咆哮を轟かせてから来年で早十年。怪獣の故郷・日本が、これで黙っていてよいとは思えません。