BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

キカイダーREBOOT 感想

AGAスキンクリニックの評判ってどうよ?【REBOOT】

 いつものごとく公開初日に見に行きました。いつもライダーや戦隊の映画を上映している近くのシネコンでは上映していないので、新宿バルト9まで足を運ぶことに。ここに行くのは「仮面ライダー THE NEXT」を見に行った時以来ですね。いつものライダーや戦隊の映画を近くのシネコンで見るときはいつも公開初日でも客はまばらなのですが、今回もそれと同じ感覚で行ったら午後2時半の回はすでに満席で、5時からの回を待つ羽目に。さすが東京は違います。お客のほとんどが私同様大きなお友達だったことは言うまでもありません。

 さて、感想です。いつも通りネタバレを含むのでご注意ください。

 ストーリーに関しては、以前このブログでもレビューを書いた松岡圭祐氏の小説をベースとして、約2時間に収まるように改変した、と言ってよいでしょう。小説版が素晴らしい内容だっただけに、これを映画向けに簡略化したらどうなるか、というのはあらかじめ想定していたので、ストーリーに関してはまぁこんなものかな、といったところでした。

 アクションは宣伝のとおり力の入ったもの。ジローやマリは殴っても殴られても表情を変えない、悲鳴も呻きも発しないというアンドロイドらしい演技も徹底していました。特にマリ役の高橋メアリージュンさんは、冷徹な微笑がまさに人の皮を被った機械という感じで素晴らしい。ただし、確かにアクションはすごいのですが「人ができる動き」をあまり逸脱していなかったのが残念でした。せっかくロボット同士の戦いを描くのですから、小説版で詳しく描写されていた、人間にはできない急加速や急制動、あるいは足のジェットで空を飛ぶといった非人間的、機械的なアクションを期待していたのですが。

 ここから先は文句ばかりになってしまうのですが・・・まず、キカイダーがかっこよくない。圧勝したのは最初の戦闘員(アンドロイドマンではなく人間)とグレイサイキングだけで、マリには片腕を引きちぎられて敗北し、ハカイダーとの決戦も泥仕合の挙句自爆同然の必殺技(あれはデンジエンドと言うよりはウルトラサイクロン)で辛くも勝利という有様で、ヒーローらしいカタルシスが感じられませんでした。確かに、かつてのTV版のキカイダーも毎回のようにギルの笛の音に苦しんだり、あちこち壊されてはミツ子さんに直してもらったり、仮面ライダーイナズマンといった同時期のヒーローたちと比べておせじにも強くは見えないヒーローではありました。制作側としてはそのあたりを再現したかったのかもしれませんが、シリーズものならまだしも単発の劇場版でヒーローにカタルシスを感じないというのは、さすがにあんまりです。「志村後ろ」には不意打ちを食らいましたけどね。かつてのTV版が「8時だよ! 全員集合」の裏番組だったことが元ネタか。

 次に、キカイダーに輪をかけてハカイダーがかっこよくない。「ハカイダーがどれだけかっこいいか?」が今回の映画を見るにあたって自分の中での最大の評価基準だっただけに、これは致命的でした。今回のハカイダーの頭の脳みそが誰のものか、事前情報では伏せられていましたが、「どうせ死んだはずの光明寺博士が生きていて、彼のものなんだろ」と高をくくっていました。ところがふたを開けてみれば、なんと今回のハカイダーの脳みそはプロフェッサー・ギルのもの、つまりギルハカイダー。しかも今回のギルは、科学者としての才能において光明寺博士に遠く及ばず、周囲から望むような評価を得られないことに鬱屈しているような俗な男です。これまでいろいろな作品で描かれてきたギルは、どれも確かに最低の悪人であり狂人ではありましたが、少なくとも科学者としての光明寺博士との歴然たる差は受け止め、正当に評価していたと思います。そうでなければ彼を騙してダーク破壊部隊を作らせて世界征服しよう、なんてことはしないでしょうし。今までのギルに比べて今回のギルは悪人としても凡人な上、今回のハカイダーは人格そのものもギル自身のものがそのまま反映されるタイプ。他人を見返してやりたいという卑俗な感情を募らせたあげく人間をやめた男、それが今回のハカイダー。結果的に光明寺ハカイダーは言うに及ばず、01のギルハカイダーにすら劣る、史上最低のハカイダーとなってしまいました。

 そして最も納得いかなかったのがクライマックス、ハカイダーを倒すためにキカイダーが自ら良心回路を解除するところ。ハカイダーが嘲笑したようにこれは光明寺博士の想いを否定することであり、いくらなんでも納得するわけにはいきませんでした。どれだけ非科学的、非論理的と言われようと、我々人間は心や感情、意志といった目に見えない精神的な力が物理的な限界や力の差を凌駕して勝利を収める瞬間を見たいのです。心を持った機械が主人公のこの映画で、それを見せないというのはどうなのでしょう。

 ほかにもサイドマシーンが出てこない、グレイサイキング以外のダークロボットが出てこないなどなど、細かい不満はあるのですが・・・とりあえず、「この作品を石ノ森章太郎先生に捧ぐ」みたいな文句が出てこなかったのはせめてもの幸いでした。