BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

本当はとんでもない特撮ソング①

 特撮の魅力を語るうえで忘れてならないものとして、キャラクターやストーリーだけでなく音楽、わけてもいわゆる特撮ソングというものは欠かせないものであると思います。特撮ソングとして真っ先に思い浮かべられるのはなんといってもヒーローのかっこよさをストレートに歌った主題歌ですが、ヒーローが人知れず抱える孤独を歌ったバラードや、ヒロインの女の子らしさを前面に出したポップな曲などもあり、ストーリーに負けず劣らずその音楽世界は奥深いものです。しかしそれだけ奥深い世界となると、その中にはいくら奥深いとは言ってもこれは・・・と思ってしまうようなとんでもない曲もあります。今回はそんな曲の一例をご紹介いたします。

 1954年、鮮烈な銀幕デビューを果たし、「怪獣」という全く新しいキャラクター像を確立した世紀の大怪獣・ゴジラ。その誕生から半世紀以上を過ぎた現在に至るまで、「怪獣」というキャラクターの代名詞的存在であり続けてきたことは、特撮ファンならずともよく知られているところです。しかし、長く愛されてきたキャラクターというものはその長い歴史の中で得てして変質を余儀なくされるものであり、誕生から現在に至るまで全く変化していないキャラクターというものは稀有な存在と言えるでしょう。ゴジラもまたその例外ではなく、戦争と核のもたらす破壊と恐怖の象徴として誕生した現代の破壊神は、その姿を大きく変質させてきたのです。その萌芽は、シリーズの2作目にして既にありました。第1作の「ゴジラ」の続編として公開された第2作「ゴジラの逆襲」。この映画にはもう一体の怪獣・アンギラスが登場し、ゴジラ大阪城を破壊しながらの死闘を展開。この作品において誕生した「怪獣対怪獣」という図式はゴジラのみならず後に作られていったほとんどの怪獣映画のスタンダードとなり、ゴジラ自身もその後キングコングモスラとの対決を演じました。ところが、成り行きでラドンモスラと手を組みキングギドラを撃退したあたりから、ゴジラは人類の敵対者から、悪の怪獣から人類を守るために戦うヒーローへと、そのスタンスを変化させていきます。そして、1970年代最初のゴジラ映画である「ゴジラ対ヘドラ」が公開される頃には、ゴジラガメラと同じく、すっかり子供の味方となっておりました。

 1971年当時日本が抱えていた大きな問題に、公害問題がありました。工場の排煙による大気汚染、光化学スモッグ、ヘドロによる海洋汚染。そんな時代において現れ、ゴジラの前に立ちはだかったのが、ヘドロを取り込み、煤煙を吸い込みながら成長し、硫酸の霧をまき散らしながら空を飛ぶ公害怪獣ヘドラでした。そして、第一作以来ともいえるほどに社会問題を前面に押し出したこの作品の主題歌となったのが「かえせ! 太陽を」でした。


水銀 コバルト カドミウム
鉛 硫酸 オキシダン
シアン マンガン バナジウム
クロム カリウム ストロンチュウム
汚れちまった海 汚れちまった空
生きもの皆 いなくなって
野も 山も 黙っちまった
地球の上に 誰も
誰もいなけりゃ 泣くこともできない
かえせ かえせ かえせ かえせ
みどりを 青空を かえせ
かえせ かえせ かえせ
青い海を かえせ かえせ かえせ
かえせ かえせ かえせ
命を 太陽を かえせ かえせ
(以上、1番の歌詞)

 いくら公害がテーマの映画と言ってもここまでやるかという徹底ぶり。化学物質の名前が歌詞の中に最も多く出てくる歌としてギネスに申請すれば認定されるんじゃないでしょうか。しかも、この曲が流れるオープニングの映像が、サイケデリックな映像をバックに歌う女性歌手と、ヘドロと大量のゴミが浮かぶ海が交互に映し出される(ヘドロにまみれたマネキンが浮かんでいるカットが特に不気味)というインパクト抜群なものであるだけに、より鮮烈に印象が焼けつけられます。さらに本編でもやはりサイケなペイントが施されたボディースーツを着た女性歌手がゴーゴー喫茶で歌いながら踊り狂うシーンまであるに至っては、70年代という時代のいろんな意味でのすさまじさを感じずにはいられません。

 そして以前ちょっと紹介したように、この映画では怪獣映画としては珍しく、ヘドラの猛威によって殺される人々の姿が容赦なく頻出します。それも、ヘドラが放ったヘドロ弾が雀荘を直撃して麻雀を打っていたサラリーマンたちがヘドロに沈みながら白骨化したり、ヘドラが飛行する際に放出される硫酸ミストによって人間がバタバタ倒れ、その後やはり白骨化するなど、むごたらしい描写のオンパレード。しまいには、普通なら絶対に死なないはずの主人公格の青年までがヘドラによってむごたらしく殺されてしまう始末。感情を一切うかがわせることなく、ただ動くだけで周囲に死をもたらすヘドラの姿は、この頃のゴジラが失ってしまったものを代わりに担おうとしていたかのようにも思えます。

ゴジラ対ヘドラ [DVD]

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 さて、この映画が公開された1971年は、「仮面ライダー」の放送が開始された年でもあります。この番組の成功によって等身大の大きさのヒーローが悪の組織と戦うという構造を持った類似の番組がカンブリア大爆発のように氾濫し、ゴールデンタイムにテレビをつければどこかしらの局でヒーロー番組が放映されているという特撮ファンにとって夢のような時代が到来します。当然その中には名作もあれば迷作・怪作も含まれていたわけですが、明日はその一つである、とある番組のとある曲についてご紹介いたします。