BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

怪獣文藝

怪獣文藝 (幽ブックス)

怪獣文藝 (幽ブックス)

 見よ、かつての秋田書店による「怪獣画報」や「怪獣ウルトラ図鑑」を完全再現したこの表紙を!

 そして、大伴昌司氏最大の発明であるこの内部図解を! 謎の器官「ふくろ」ももちろん描かれています。一方で、「一げきでスカイツリーをこなごなにする」という「ゴゴラ尾」の解説が現代を感じさせます。

 ・・・とまぁ、これだけ見ると中身の方も怪獣と自衛隊の攻防戦とか、二大怪獣の天地を揺るがす大激闘とかを期待してしまうわけですが、そういうのを期待して特撮ファンがこの本を手に取ると裏切られることになります。この本の正体は、「怪獣」をお題にした怪談・幻想小説集。どの小説にも怪獣が出てくることには間違いはないのですが、上に掲げたようなものを期待すると見事に裏切られます。佐野史郎氏の小説に至っては「イア! イア」と叫ぶ女まで出てくる始末。したがって、特撮ファンであり、かつ怪談ファンであるという両方の属性を満たした人間向きと言えるでしょう・・・なんとニッチな。

 個人的には山田正紀氏の「松井清衛門、推参つかまつる」が一番楽しめました。天保九年、主君の命を受けて伊豆に出現したゾンビの群れを退治することになった2人の若侍・・・という時点ですごいのですが、そのゾンビを操っていたのが、意外な特撮番組の意外な怪獣、というのが面白かったです。さすがに名前は微妙に変えていますが。また、成田亨本多猪四郎、怪獣映画黎明期に重要な役割を果たした2人の人物のルーツを東北に求める黒木あるじ氏の「みちのく怪獣探訪録」も読みごたえがあります。

 対談記事も2つ収録。一つは佐野史郎氏と赤坂憲雄氏。もう一つは夢枕獏氏と樋口真嗣氏。「怪獣モノって、終わらせ方が難しいなっていつも思うんです」という樋口氏の意見には大いにうなずきました。「サンダ対ガイラ」の終わり方なんて、あれだけすごい映画なのに全然釈然としませんし。あと、アメリカ人にとってのゴジラの原体験が「ゴジラ対メガロ」というのは、私も可哀そうだと思います。そういう人たちが今作っているハリウッド版ゴジラ、どうなるかなぁ・・・。

 2年前のあの日、爆発する原子炉建屋の映像を見た私の脳裏によぎったのは、火の海となった東京で背びれを輝かせながら火炎を吐く初代ゴジラの姿でした。この世には人知の及ばぬ抗いようのない力があり、それは突然やってきて、全てを破壊しつくしていく。日本中のすべての人がその事実を改めて思い知らされた今だからこそ、怪獣を考え、怪獣を描く意味がある。かねてから感じていたその思いを共有できたように思えました。