- 作者: 荒川稔久,石ノ森章太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/06/28
- メディア: 文庫
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小説仮面ライダーシリーズ、満を持してのクウガの登場。本来ならシリーズ第一弾としてオーズ、W、カブトと共に発売されるはずが、発売延期を繰り返して早半年。さすがにいつまで待たせるんだと思っていましたが・・・いやはや、平身低頭するしかありません。そりゃあ書き上げるのに時間かかるわ・・・と十分すぎるぐらい納得してしまう出来栄えでした。考えてみればクウガは平成ライダーシリーズの第一弾を飾った作品というだけでは説明のつかない、原点にして他の平成ライダーシリーズとは全く異なる魅力にあふれた作品であり、シリーズの中でも別格扱いするファンも多いであろう作品。そのクウガのその後の物語を放送当時のメインライター自ら描くとなれば、そのプレッシャーはいかばかりであったか。それをはねのけ見事作品を書き上げた荒川さんには、心から拍手を贈りたいです。
まず、舞台設定を変にひねることなく、五代雄介がダグバを倒して姿を消してから13年後という設定にしたのは、放映が終わってやはり13年という年月の経った現実の我々が感情移入するうえでも大正解だったと思います。桜子さん、みのりちゃん、おやっさん、椿先生、榎田さん、元未確認生命体対策本部の面々・・・それぞれにそれぞれの13年の時が流れ、変わったところもあれば変わらないところもあり。しかし、いまだ雄介はみんなの前に姿を現さず、彼に癒すことの困難な傷を負わせてしまったのではないかと悔いを抱えながら今も第一線で働く一条さん。そして発生する不可解な連続事件と、「白いクウガ」の目撃情報。
読み始めてすぐに、当時クウガを見ていた人ならば誰もが覚えている独特の空気に引き込ませるのは、メインライターたる荒川さんの面目躍如。放送当時からモブキャラなんて一人もいないんじゃないかと思うぐらい人物設定の練り込まれた作品でしたが、この小説でも文庫本300ページ足らずの中でよくぞここまでというぐらい設定の練り込まれた登場人物たちが、本当にいる人間のようにいきいきと動き回っています。
一方、クウガのもう一つの魅力ともいうべきグロンギ族の不気味さもTV以上。不可解な変死事件の証拠を重ねて法則性を見つけていく過程を読みながら、放映当時「今度のグロンギはどんなルールでゲームを行うのか」というのを(不謹慎ですが)楽しみにしていたのを思い出しました。13年前のグロンギたちは、終盤にはノーパソを持ち歩いて掲示板に犯行予告を書き込む奴なども出てきましたが、あくまで人間社会とはゲーム以外の関わりを持たず、仲間内だけで活動していました。しかし今回のグロンギたちは、積極的に人間社会にもぐりこみ、社会的地位を得たうえで準備を重ねて大量殺戮を目論む、さらに恐るべき存在に。そんなことができるんだったら殺人ゲームなんかよりもっと楽しい遊びがいくらでもあるだろうにと呆れてしまいますが、あくまで人間をゲームの獲物としか見ていない、人とは似て全く非なる異質な存在としてのグロンギの不気味さは、さらに深まっておりました。
着々と進むグロンギの陰謀と、それを阻止せんとする一条さんたち。その中で繰り返し描かれるのは、もう二度と雄介を戦わせたくはない、ただもう一度雄介の笑顔が見たいという、かつて雄介に辛い戦いを背負わせてしまった一条さんたちの思い。それはきっと、同じように雄介たちの物語を見届けた我々みんなの願いでもあるはず。もしあの物語の続きを見られるのだとしたら、我々が願うのはクウガがグロンギと戦う姿ではなく、ただもう一度雄介が笑顔で一条さんたちの前に戻ってくることではないでしょうか。一条さんたちの、そして我々の願いはかなうのか。その答えは、ぜひ実際に読んで見届けてください。読み終わった時には、きっと心に青空が広がっていることでしょう。
実は例の非公認のアレのネタも一つ紛れ込んでいたりして・・。