- 作者: 星新一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1982/08/27
- メディア: 文庫
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趣味で小説など書いて公開している割には、読書はノンフィクション系ばかりで小説はほとんど読みません。好きな作家となるとさらに少なく、そう呼べるのは今のところ3人だけ。京極夏彦、横溝正史、そして星新一です。
説明するまでもありませんが、星新一はショートショートと呼ばれる超短編作品の第一人者。その生涯で実に1,001編以上という膨大な数のショートショートを書き上げたすごい人です。彼の作品と出会ったのは中学生の時。一週間ほど入院することになり、暇だろうからと当時出たばかりの全集を父が図書館で借りてきたのがきっかけでした。全集はそれぞれが辞書ぐらいの厚さがある全3冊だったのですが、あまりの面白さにむさぼるように読んでしまいました。
彼の作品を読んでいて驚かされるのは、一人の人間の頭から出てきたとは思えないような話のバリエーションの多彩さ。1ページで終わってしまうものがあれば、数十ページの比較的長いものもある。笑ってしまうものもあれば、ゾッとするものもある。しかも全く古さを感じさせませんし、現在の世の中を先取りして予見したようなものもいくつもある。これだけの作品を大量に生み出すことができたこともさることながら、短い話で強烈なインパクトを与えることができたということに、本当に驚きます。
数ある作品の中で個人的に気に入っているのが、「未来いそっぷ」という短編集に収録されている「不在の日」という作品。ショートショートとしてはちょっと長めのこの作品、部屋の中で中年の男が何かを待っているようにそわそわした様子でいるところから始まりますが、実はこの男、自分が小説の作中人物であることを知っているというメタフィクション。しかしいつもと違い、待てど暮らせど何の事件も起こらない。男は同じように作中人物の自覚のある近所の老人や途中から現れた青年と一緒に作者は何をしているんだろうと気を揉んだり、今回はこういう趣向なんじゃないかとあれこれ推測したり、しまいには自分たちで物語を動かそうとまでするわけですが、それでもやっぱり何も起こらず・・・という、何も起こらない状態に右往左往する作中人物たちが見ていて面白い作品です。それだけでも十分面白いのですが、驚かされるのがこの話の中でさえ、普通に作品が書けそうなアイディアがいくつも出てきては消えていくところ。青年が自分が主役になって進めようとする物語の案なんて、普通にいい話です。アイディアを湯水のように使い捨ててしまえることに、嫉妬さえ覚えてしまいますね。「未来いそっぷ」には他にも星新一らしいバリエーションに富んだ作品がいくつも載っていますので、皆様も気軽に手に取ってみてはいかがでしょうか。