BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

人造人間キカイダー The Novel

 石ノ森章太郎先生が生み出した仮面ライダーと並び称される「人造人間キカイダー」の小説化。作者は「Qシリーズ」や「千里眼シリーズ」で知られる松岡圭祐氏。松岡氏の作品を読むのは、私はこれが初めてでしたが。

 キカイダーは石ノ森氏自身による原作漫画とそれを原作とした特撮TVドラマ、OVAなど仮面ライダー以上に多様なメディアミックスが行われた作品ですが、小説化はこれが初めてのはず(S.I.Cのジオラマストーリーを除けば)。今回の小説は特撮版の設定をベースに舞台を現在に置き換えただけでなく、ファンも唸らせる大胆な改編や新解釈が盛り込まれています。

 まず冒頭、東日本大震災での原発事故現場にアシモを投入できないか、という一般からの意見がホンダに数多く寄せられたものの、現状のアシモでは高度な作業を行うにはまだまだ性能が不足していた、というNHKスペシャルのロボット特集でも取り上げられた実際の事実から、そこに革新的な技術発展をもたらしたのがキカイダーの生みの親である光明寺博士だったという流れで巧みに現実と虚構をつなぎ合わせていて、一気に物語に引き込まれました。

 キカイダーの最大の特徴の一つは、右半身が青、左半身が赤と左右が非対称となったその姿。彼がこのような姿なのは、従来の作品ではいずれも、彼の体内に内蔵された善悪を判断するためのいわば機械仕掛けの「心」である「良心回路」が不完全であることが、その姿にまでも影響しているためという解釈がとられてきました(過去の作品では良心回路が完全に作動し全身が青くなったキカイダーも登場)。今回の小説では、キカイダーの体は別々に作られたロボットの半身をつなぎ合わせたものであるという全く新しい設定がなされ、さらにその理由も、彼が他のロボットとは異なる人間性を持つことと大きく関わっています。このもととなった2体のロボットの名前「フュージティヴ・フロム・ヘル(地獄からの逃亡者)」「ゼロダイバー」は、いずれも特撮版の企画段階でのタイトル候補からとられたもので、ニヤリとしてしまいます。また、キカイダーの左の頭に大きくとられたクリアパーツ部分は太陽電池を動力源としたプロトタイプの設計を流用したというのも、後番組に登場した彼の兄であるキカイダー01を踏襲した設定ですね。

 特撮版の主要登場人物は全員登場。中でも光明寺博士の娘・ミツコの人物像の大きな変更には驚きました。これまでの作品ではミツコは善悪の判断が未熟で時にその狭間で苦悩するキカイダー=ジローを母親のように見守り導き、父親ほどではないもののロボット工学の技術を持っておりダメージを負ったジローを修理し、同時にロボットと知りつつも彼に恋愛感情を抱いてしまうというキャラクターでした。しかし今回の小説での彼女は内向的な性格の女子大生で、特に男性との関係づくりが苦手でときメモGirls Sideを何度もプレイしてしまうような、これまでの作品とは大きく異なる性格付けがなされています。父親が研究で忙しかったために、世間一般の子どものように親からの無償の愛情を受けることができず、男性に対して自分を無批判に愛してくれることを望んでしまう、子供のような自分自身を嫌悪していた彼女ですが、そこに彼女を守るために作られたジローが現れる。ジローの姿は自分が気に入るように父がそう作ったものだと理解しながらも、彼女はジローに惹かれずにはいられない・・・。どちらかといえばジローに守られるキャラクターとしてのミツコは、なかなか新鮮でした。一方ジローの方は、原作漫画のように善悪の狭間で苦しむような描写はなく、ミツコと接することで人間の見せる感情の複雑さに戸惑いながらも、落ち着いてそれを理解しようと努め、やがては自分の体が機械的にではなく自然に全身青になることを夢見る、そんな人物像が印象的でした。

 そして、キカイダーと言えば必ずセットで語られるのが、彼の弟とも呼ぶべき宿敵ハカイダーキカイダーの破壊という使命だけを己の存在意義としてどこまでもキカイダーを追い、邪魔する者は同じダークのロボットであっても容赦なく攻撃し、主人であるプロフェッサー・ギルに対してもお構いなしに反抗する。その後の特撮のみならずアニメやマンガに登場するライバルキャラに大きな影響を与えた不滅のダークヒーローは、もちろんこの作品においても容赦なくキカイダーに襲いかかります。特撮や原作漫画、アニメでは意外にも実現したことのなかった、キカイダーハカイダーの互いに全力を尽くしての対決、そして決着が描かれるのも、この作品の見どころですね。キカイダーハカイダー、あるいはダークロボットとの戦いは、攻撃によって体を構成するパーツが破壊されていく様が緻密に描写されており、高性能のロボット同士の戦いにリアリティと緊迫感を与えています。

 ・・・と、書きたいことを書きたいまま書いてしまいましたが、これまでキカイダー作品に触れたことのある人もない人も、ぜひ読んでみることをお勧めしたいですね。裏表紙には「2014年映画化」の文字も。今年のスーパーヒーロー大戦Zの終わりに映ったキカイダーがおそらくこれを指していると思われますが、この小説をベースとしてくれるのなら、きっと面白い映画になるでしょう。