BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

小説 仮面ライダーアギト

小説 仮面ライダーアギト (講談社キャラクター文庫)

小説 仮面ライダーアギト (講談社キャラクター文庫)

 講談社キャラクター文庫の小説仮面ライダー、第2弾はアギトとファイズ。アニメジョジョ第2部OPのCDと一緒にアマゾンに頼んだら到着が遅れました。どっちを先に読むかで悩み、ファイズは読むのに覚悟がいるということでアギトから読むことに。

 第1弾のカブト、W、オーズはTV本編の前日談や後日談、語られなかった空白の期間の出来事、あるいはTVシリーズの一部をそのまま書いたものでしたが、今回のアギトの小説はいわば本編の再構成。よくアニメの劇場版で登場人物はそのままにTVシリーズとは大幅に物語を変えた作品が作られますが、イメージとしてはそんな感じですね。TVシリーズとの相違点を挙げると、以下の通り。

・3人のライダーの強化形態(アギトのグランドフォーム以外、G3-X、エクシードギルス)及びアナザーアギトは登場しない。
・あかつき号の乗客たち、沢木哲也(本物の津上翔一)、太一は登場しない。
・謎の青年とエルロードたちも登場しない。
・「あかつき号事件」が「あかつき村事件」に変更され、事件のあらましも大きく異なっている。
・涼の生い立ちが詳しく描写されている。

 このように登場人物が大きく絞られているわけですが、人の進歩を阻もうとするアンノウンたちと3人の仮面ライダーとの戦いという基本的な構図にはかわりはありません。最大の変更点は、ヒロインである真魚が物語のほぼ中心に位置すると言っていいほど、物語上で大きな役割を担っていること。TVシリーズでの彼女もヒロインであることに変わりはありませんし、翔一を励ましたり涼を復活させたりと重要な役割を担ったことは確かですが、どちらかというと翔一たちの戦いを少し離れたところから見守っているような、ストーリーの中心からは少し外れたところにいる印象がありました。物語のキーとなる事件である「あかつき号事件」とも彼女は直接の関わりはありませんでしたし、特に氷川とのつながりも薄かったですし。

 これに対しこの小説では、翔一、氷川、涼の3人を、彼女が媒介となってつなぐ働きを果たしています。これによって人間関係がコンパクトにまとまっており、文庫の小説という長さに制約のある作品としてアギトの物語を再構成するうえで、これはなかなか良い方法だなと思いました。TVシリーズでは超能力を持つがゆえに所属していたテニス部を辞めざるを得なかった彼女が、この小説では逆に、超能力を持つがゆえに積極的に同級生とかかわろうとしなかった彼女が、最後にはそれを乗り越えてテニス部に入り友達と楽しそうにおしゃべりするまでになる、というのも対照的でした。ただ、本編の彼らを知っていると、真魚が翔一に明確に恋愛感情を抱いたり、涼が助けられた借りを返す以上の思いを彼女に対して抱いたりすることに関しては、どうしても違和感をぬぐうことはできませんでした。どうもアギトの人間関係にはプラトニックなものであるという印象があります。もう一つの大胆な変更は、「アギト」という存在そのものが、TVシリーズとはほぼ真逆の存在になっていること。これについては、実際に読んでもらいたいと思います。

 一方で全く変わらないのが、G3ユニットの3人の焼肉屋での食事シーン。焼肉業界が狂牛病の悪影響にあえいでいた当時、それに逆行するように執拗なまでに焼肉屋での食事シーンを流し、業界団体から番組が感謝状をもらったというのは有名な話ですが、この小説でも何度もそれが出てくるあたり、やはりこれはアギトという作品において外せない要素なのだなと改めて思いました。それについては、小沢と北條の喧嘩も同様です。

 アギトは多くの謎を提示しながらもそのほとんどを回収することに成功した、きれいにまとまった物語でした。それゆえに後日談とか空白の期間を埋める物語とかは作りづらいなと思っていましたが、それを小説化するうえでコンパクトな再構成を試みるという方法は、選択肢としてとりうる最良の方法だったのではないでしょうか。ただ、TVシリーズ以上に不幸な運命にさらされる涼が気の毒です。たとえ10年たってても井上氏(この作品では監修ですが)は彼を幸せにする気はさらさらないんだろうなぁ。