BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン最終話 感想

 仲間たちのもとを一人ずつ回り、「ドンブラザーズに入ったことをどう思うか」、その問いの答えを聞いて回るタロウ。そんな彼の様子に異変を感じたはるか達に、マスターはソノイたちが仲間に加わり、後継者であるジロウが成長を遂げた今、タロウはその役目を終え、記憶をリセットされ戦いとは無縁の人生を送ることになる、と告げる…。

 

 さてさて、どんな最終回になるか全く予想がつかなかったドンブラザーズでしたが、ふたを開けてみればなんとも不思議な味わいのある最終回となりましたね。一応、ソノシ達をも簡単に始末してしまうほどの脳人最強の処刑人、ソノナとソノヤがラスボスということになりましたけど、結局は彼らさえいつも通りタロウ一人によって退治されるという、なんともあっさりとしたラストバトルに。ただ、それもヒーローものとしての定番のポイントではなく人間ドラマに重きを置く井上敏樹作品としては意外なものではなく、1年の戦いを終え、これからもドンブラザーズとして戦いながら新たな日々に向けて歩き出したメンバーの姿を淡々と描いていく様は、とてもこの番組の最終回らしいという印象を受けました。人間の欲望がなくならない限りヒトツ鬼もまた現れ続けるし、まだまだ脳人の刺客も送られてくるかもしれない。そんなスーパー戦隊としては異例の、終わらない戦いを宿命づけられた戦隊だからこそ、最終回をこういったかたちで描く意味があったように思えます。翼はあれだけ必死に戦ったにもかかわらず夏美との愛を失うという結果になりましたが、ソノニと手を取り合って逃げる姿に哀しみは感じられませんでした。一方、心の中でみほとのことにケリをつけ、家を出て新たな生活を始めようとしてた雉野のもとには夏美が現れ、「夢の続きをしませんか」と声をかける。この雉野のラストに関しては、夏美にとっては夢の続きでも、雉野にとっては居心地がいいだけの共依存の関係に過ぎなかった日々からようやく抜け出そうとしていたところへ、また全てを振り出しに戻しかねない誘惑をされたわけですから、他のメンバーと違ってハッピーエンドとは言い難いのが、またなんとも雉野らしいですね。彼がそれに対してどう返事をしたかは描かれなかったので、その先はそれぞれ想像するしかないのですが…。そして物語を締めくくるのは、はるかの家に配達に訪れたタロウの「縁ができたな」というセリフ。番組開始当初から妖怪縁結びだのさんざんネタにされてきたこのセリフが、物語を締めくくる最高のセリフになるとは…いやはや、最後まで脱帽です。

 

 さて、毎年してるようにこの一年を総括したいところですが…この作品に関しては、とてもじゃありませんがそう簡単に総括できるもんじゃありませんね。間違いなくスーパー戦隊シリーズ始まって以来の空前絶後の怪作にして傑作であり、主題歌のタイトルである「俺こそオンリーワン」を地で行く作品です。おそらくこんな作品は、これから先50年スーパー戦隊が続いても二度と現れることはないでしょう。長年特撮作品を見続けてきた人間としては、作風や傾向を完全とまでは言わないけれどおおよそは理解した気になっていた井上敏樹というベテラン脚本家の、まだ見ぬ引き出しを毎週見せられ驚かされ続けた一年でもありました。毎週見たことも聞いたこともないようなとんでもない展開でありながら、物語としては恐ろしいまでに計算し尽くされたその脚本術。仮面ライダーよりも自由になれるスーパー戦隊という環境に再び戻ってきた井上敏樹という脚本家は、まだまだこれほどの才能を隠し持っていたのかと驚嘆し通しの一年でした。このぶんならまだまだその才能の泉が枯れることはないでしょうが、一年間付き合ってさすがにこちらもヘトヘトなので、また何年か置いてから次なる彼の作品に出会いたいものですね…。