BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

人間になったピノキオ、人間にならなかったピノキオ

 宇宙刑事ギャバンが放送から30周年を迎え、劇場版が公開されるなど盛り上がりを見せている今年。しかし、この2012年にアニバーサリーを迎えたヒーローはギャバンだけではありません。今年は仮面ライダーと同じく石ノ森章太郎先生によって生み出されたヒーロー、「人造人間キカイダー」の放送から40周年の節目の年でもあるのです。

人造人間キカイダー 6 (サンデー・コミックス)

人造人間キカイダー 6 (サンデー・コミックス)

 タイトルが示す通り、仮面ライダーが改造人間の物語であったように、「人造人間キカイダー」は人造人間、すなわち、ロボットの物語です。主人公である人造人間キカイダーは、ロボット工学の権威である光明寺博士によって作り出されたロボット。光明寺博士は彼の作ったロボットを悪事に利用しようとするかつての研究仲間・ギル教授に対抗して、自ら善悪を判断し、悪い命令には絶対に従わない、いわば「心」を持ったロボットとしてキカイダーを作りました。そして、人間にとっての心の代わりとなる「良心回路」をキカイダーに組み込むのですが、開発中の実験の失敗によって、キカイダーの良心回路は不完全なものとなってしまいます。そして、光明寺博士の失踪によって良心回路が不完全なままこの世に誕生したキカイダーは、ギル教授が送り込む兄弟ともいえるロボットと、そして、不完全な心がもたらす善悪の葛藤と戦いながら、博士を探す旅に出るのです。

 この作品は仮面ライダー同様、TV版、石ノ森先生による原作漫画版ともに特撮ファンにとって有名なものとなっておりますが、今なお語り草になっているのは、漫画版のラストです。戦いの果て、キカイダーは仲間のロボットたちとともに、ギル教授の脳が組み込まれた宿敵のロボット、ハカイダーに捕えられ、「服従回路」を組み込まれてしまいます。しかし、完全にハカイダーの操り人形と化してしまった仲間たちとは異なり、キカイダーは彼の命令に従わないばかりか、従うふりをして仲間たちを破壊する、というこれまでの彼には考えられない行動を見せます。ハカイダーキカイダーの改造を急ぐあまり、彼の良心回路を外さないまま服従回路を組み込んだため、植えつけられた「悪の心」に負けまいと、良心回路の働きが逆に強化される結果を招いたのです。

・・・おれはこれで・・・人間と同じになった・・・!! だが それとひきかえにおれは・・・
これから永久に”悪”と”良心”の心のたたかいに苦しめられるだろう・・・

 こうして、良心回路を完全なものにするのではなく、善と悪の心の相克を抱え込んだことによって、皮肉にもキカイダーは人間と同じ「心」を手に入れたのです。

 一方、石ノ森氏はキカイダーと同じく「人間になろうとするロボット」の物語をもう一つ描いています。その作品の名は、「ロボット刑事」。

ロボット刑事 (2) (中公文庫―コミック版)

ロボット刑事 (2) (中公文庫―コミック版)

 「ロボット刑事」の主人公は、どこからか警視庁に送られてきた、人間と全く同じ感情を持つロボット・K。彼は警視庁の新しい科学捜査の試みとして、ベテラン刑事の芝とコンビを組むことになり、ロボットを使った犯罪を幇助する謎の企業「R.R.K.K」との戦いを繰り広げます。

 Kとキカイダーの最大の違いは、Kは最初から人間と変わらない「心」を持っているという点(この理由については、作品終盤で種明かしがされます。これによってKは、厳密には「ロボット」ではないことが明らかになるのですが・・・)。Kは哀しい時には涙を流し、嬉しいことがあれば飛び上がって喜びます。にもかかわらず、彼の外見はあくまでロボットであり、ジローという人間の姿に変身することができたキカイダーのような機能はなく、それがもとで彼は周囲の人間から露骨な差別や偏見を受けます。

 そして作品のラスト。「R.R.K.K」の首領によって芝の娘を人質に取られたKは、救出のため敵の待つ島へと乗り込みます。人間にあこがれ、普段は人間と同じように服を着て生活し、プライベートな時間では詩まで書いていたK。しかし、そんな今までの自分をかなぐり捨てるように彼は衣服を脱ぎ捨て、これまで使うことのなかった全身に装備された兵器を駆使して、押し寄せる敵のロボットを撃破していきます。

・・・ぼくはこれまでできるだけ人間に近づこうと思っていた・・・
・・・だからできるだけ機械らしい戦いかたはしたくなかった。だが、もういいんだ!!
・・・たしかに人間は、機械よりはるかにすぐれた部分をもっている。
・・・でも・・・弱い部分も、そしてはるかにわるい部分もたくさんあることもわかったんだ・・・!!
ぼくは人間として生きることはやめた・・・!
機械として、機械の誇りをもって、機械らしく生きることにきめたんだ!!
・・・今まではいちばんあこがれていた・・・人間の持つ”感情””と戦うために・・・!
・・・”精神(こころ)”があるゆえにその”精神”が生み出す”悪”と戦うために!!

 キカイダーと同じく、人間の心の悪と向き合ったK。その果てに彼が下した決断は、「人間」としてそれと戦う道を選んだキカイダーに対して、「機械」としてそれと戦うものでした。ともに人間にあこがれ、ともに人間の心と向かい合った果てに、異なる生き方を選んだ異形の双生児ともいえる2体の人造人間。彼らの姿は今なお、「人間とは何か」という問いを我々に問いかけ続けます。

 漫画版キカイダーは、人間と同じ心を手に入れたキカイダーピノキオになぞらえた、次の有名な言葉とともに、一人いずこともなく去っていくジローの姿を描き幕を閉じます。

・・・だが ピノキオは人間になってほんとうに幸せになれたのだろうか・・・?

人間になったピノキオと、人間にならなかったピノキオ。あなたは、どちらが幸せだと思いますか?