一括りに「怪談」といっても、その内容は実に多種多様なものであることはこのブログでも何度か触れてきたことですが、あえてそれを分類するとして、「場所」というのはその分類の基準として非常に有効なものであると思います。場所、すなわち怪異が起こる舞台は実に多様です。最も知られているのは学校、トンネル、病院。さらには寺、神社、家、会社、旅館、ホテル、海、踏切・・・怪談をたくさん読んでいると、我々にとって馴染みのある場所はどこもかしこも怪異だらけであることがわかります。
そういった多種多様な舞台をもつ怪談の中でも、山岳怪談、すなわち、山の怪談を専門に語る方がいます。登山家であり小説家でもある、安曇潤平氏です。
山の怪談を専門に語る方というのは、この方ぐらいではないでしょうか。山を舞台に限定していろいろ書けるのかと思われる方もいるかもしれませんが、これがなかなかバリエーションに富んでおり、安曇氏は既に2冊の単行本を出されています。
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このあいだ「鬼談百景」の紹介記事のコメントで「怪談はどんなエンディングになるか最後の最後までわからない」という意見をいただきましたが、安曇氏の作品にはそういうオチが予想外の方向へ転ぶ話が特に印象に残ります。「赤いヤッケの男」所収の話では、テントを張った場所に打ち捨てられたように置かれたザックが恐怖を呼ぶ「アタックザック」、雪崩に埋もれた遭難者救助のベテランだった山小屋の主人が経験した怪異「ゾンデ」。「黒い遭難碑」所収の話では、通いなれた山で偶然顔のない地蔵の列を見つけてしまった男たちを襲う恐怖「顔なし地蔵」などが特に秀逸です。
また、安曇氏自身が豊富な登山経験を持つだけに、鳥肌必至の恐怖の描写だけでなく、美しい山の風景が容易に想像できる生き生きとした登山行の描写も魅力です。山も怪談も、恐ろしさと同時に、常に人をひきつけてやまない魅力があります。そういう意味でも、これは実に相性の良い組み合わせなのかもしれませんね。