- 作者: シルヴァーノ・アゴスティ
- 出版社/メーカー: マガジンハウス
- 発売日: 2008/06/26
- メディア: 単行本
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アジアのどこかにあるという小さな国「キルギシア」にひょんなことから滞在することになった「僕」が、母国とはまるで違う考え方のもとで改革が行われたキルギシアの社会の様子に驚き、その素晴らしさを手紙で母国にいる友人たちに伝える・・・というかたちで綴られる、短い小説。
キルギシアのモットーは、人間らしさを尊重すること、誰もが自分の運命の指揮者になれること、穏やかな暮らしを生涯送れること。これらを第一に考えた結果、キルギシアはこんな国になりました。
- 一日に3時間以上働く人はいない。残りの時間は好きなように楽しみ、生産力はこれまでの3倍になった。
- 政府は2つに分かれており、一つは通常の行政を、もう一つは構造改革に取り組んでいる。
- 学校の代わりに大きな公園があり、そこに異なった知りたい内容を専門に学べる「○○の家」という建物が立ち並んでいる。
- 刑務所は廃止され、罪を犯した者は刑期の間は黄色い服を着て過ごし、なぜ罪を犯したのかを訊かれたらその理由を答えなければならない。
- 昔は政治家などに流れていたお金を使い、成人になると誰にも家が与えられ、食堂に行けば誰でも1日1回はタダでご飯を食べられる。
- 誰もがのびのびと暮らすことで病人が減り、病院の数は一つの街に一つ程度で済むようになった。
- 武器はすべて「武器の墓場」と呼ばれる場所に埋められている。警察や軍隊は存在しない。
- 憲法の条文はたった一条。「何を発起するにあたっても、国家及び国民の関心は、すべからく人間らしくあることに向かうべきである」
もちろん、実際にこのような社会を実現させるには、乗り越えなければならないものがあまりにも多すぎます。現代のおとぎ話、と言ってしまえばそのとおりでしょう。しかし、おとぎ話には必ず我々の役に立つ何かが含まれているというのもまたこの世の真理。それはこの本についても例外ではありません。たとえば、誰もが一日3時間だけ働けば済むというのは、個人的にはそれほど非現実的なことではないと思います。なんとなくダラダラと8時間かけてやってる仕事も、集中してやれば3時間とは言わないまでももっと短くできそうですし、もっと気軽に他の人に割り振れるようにするという手もあるように思えます。
キルギシアのような国は理想だとしても、資本主義が煮詰まりつつある様子を見せている以上、いずれは新たな社会システムを考えなければならない時が来るでしょう。資本主義がこの世界を支配してきたのは産業革命以降のせいぜい二、三百年。人類の文明の歴史から見れば、ごく短い間でしかありません。いつ新たな考え方がそれに取って代わったとしても、何も不思議はないでしょう。人々が新しい社会の在り方を考えるとき、そのお手本として手に取ってほしい。そう思える一冊でした。