BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

大江戸恐龍伝 第一巻

大江戸恐龍伝 第一巻

大江戸恐龍伝 第一巻

 以前「怪獣文藝」での夢枕獏先生のインタビューで執筆中ということを知ったのですが、その後すっかり忘れており、気が付けば第三巻まで出ておりましたので、あわてて第一巻を図書館で借りました。平賀源内meets恐竜という、なかなかとんでもない題材の小説。

 平賀源内と言えば静電気発生機「エレキテル」の復元や「土用の丑の日」の発案などが一般によく知られていますが、さらに本草学の研究や鉱山の調査、浄瑠璃の脚本の執筆や俳句、西洋画など、ダ・ヴィンチもびっくりの万能の天才ぶりを発揮した江戸時代の奇人中の奇人。それゆえに後の創作物での彼の扱われ方はそんじょそこらの偉人とは全く異なり、「キカイダー01」ではタイムマシンを開発した悪の組織シャドウがそれを使って江戸時代から平賀源内を誘拐して新兵器開発をさせようという特撮史上類を見ない技術の無駄使いをしようとしたほど。江戸時代を舞台に怪獣ものを描こうとするうえで、現代の悪の組織に狙われるほどの人物なら、まさに主人公としてうってつけです。

 とはいえ、第一巻で描かれるのは怪獣映画でいえば、原因不明の船舶事故が相次いで怪獣の存在がにおわされるあたりのまだ序盤中の序盤。歌舞伎の脚本家のために新しい舞台の仕掛けのアイディアをちょちょいと考えて気前よく提供するなど、この巻ではどちらかといえば同時代の人間の枠には収まらない源内の破天荒な人となりと天才ぶりを描く方に重きが置かれています。円山派の祖である絵師・円山応挙や日本の怪談・幻想小説史にその名を残す名作「雨月物語」の作者・上田秋成など、同時代の偉人たちも重要な役割で登場するのも面白いところです。

 巻末に全5巻の目次が載っていて、しかもそれぞれの章のタイトルが「源内○○する語」という内容のわかるものなので、そこからわかるのは源内が実際に恐竜と出会うのは第四巻、恐竜が江戸の街で大暴れするのは最後の第五巻と、まだまだ先のもよう。冒頭に「キングコング」の監督であるメリアン・C・クーパー、そしてわが日本が誇る特撮の神様・円谷英二にこの作品を捧ぐとあるので、キングコングあるいはモスラのような話になると思いますが、続きが楽しみです。