BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

仮面ライダーゼロワン 第33話感想

 不法投棄されていたところを不破が回収してきたテニスコーチ型ヒューマギア、ラブチャン。或人は彼の教え子だった少年を探し、彼が捨てられた経緯について事情を聴くが…。

 

 新章に入ってからフィーチャーされるようになってきた「夢」。それによって或人達もヒューマギア達も前進を遂げてきたわけですが、一方で「夢」というものは、夢は持たなければならないものなのか、夢を持ちたくても持つことができない者はどうすればいいのかといった問いを投げかけてくるものであり、今回は夢の持つそういった負の側面について初めて触れてきた話でしたね。そういった意味で、自分ではなく教え子という他者の存在なくしては自らの夢を叶えることのできない、テニスコーチという職業のヒューマギアを登場させたのは適切な人選だったと思います。ラブチャンが少年に自らの夢を押し付けるのをやめ、関係を解消してテニス教室のコーチとなって新たな生徒と夢を追うことを決めるというラストはいい落としどころでした。

 

 さて、今回の見どころは何と言ってもようやく垓に反旗を翻し辞表を叩きつけた唯阿ですね。この時が訪れるのを待っていた人は多いはず。サウザーの変身を解除に追い込んだうえに辞表代わりの鉄拳を叩きつけて去っていくのはなんとも胸のすく光景でした。ただ少し残念なのは、テクノロジーを悪用して他人の人生を弄んだことを彼女の堪忍袋の緒が切れるきっかけとするならば、ここに至るまでに彼女の技術者としての誇りなり信念なりといったものをもっと深く掘り下げて描いておくべきだったのでは、ということです。人間とヒューマギアの関係性を描くのに注力する一方で、個々の人間の描写に関しては希薄なゼロワンの問題点が、ここでも露わになってしまったように思えます。

 

 それにしても、不破のアイデンティティの原点とも言える記憶が、まるまる全て捏造だったとは驚きです。普通のライダー作品ならここから立ち直るのに何話も要したとしても不思議ではないのに、「過去の記憶はどうでもいい。今の俺には夢がある」とその場で立ち直って猛然と反撃に転じる不破にはもっと驚きましたが。普通、他人を自分の道具にしたいと思うなら、相手はメンタルが弱くて主体性のない扱いやすい人間を選ぶはずなのに、なんだって垓はこんなメンタルが超合金Zで出来ている主体性の塊みたいなゴリラを選んでしまったのでしょうか…。