BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

機界戦隊ゼンカイジャー 最終カイ! 感想

 「いつものように」功、美都子、ヤッちゃんと一緒に朝食をとる介人。しかし、そこに違和感を覚えた介人は、ポケットに入っていたセンタイギアを見てジュランたちのことを思い出し、こうなった原因である神に対して対話を開始する…。

 

 最後の相手は、やはり神。神曰く、こうなったのは思いつくままに世界を作っていたら増えすぎてしまい、かといって消すのももったいないと悩んでいたところ、トジルギアの存在を知り、それを利用して世界を閉じ込め記念品とするために、トジテンドに力を貸していた、とのこと。ただ、介人たちの世界だけは閉じ込めることができずキカイトピアとくっついてしまったため、どちらの世界が面白そうかをしばらく眺めた結果、介人たちの世界を残すことにしたという。何から何まで勝手きわまる、いかにも神らしい言いぐさですね。まぁ思いつきで作っていたから、カシワモチトピアみたいな世界まであったのもうなずけるのですが。

 

 造物主だからと言って好き勝手きわまる神の論理に対して当然介人は、作られた世界だろうと、それはもうそれぞれの世界に生きている人たちのものであり、それを作った神様だろうと自分の好きにしていいはずがない、と、全ての世界を取り戻すために立ち向かう。ゼンカイザーやスーパーゼンカイザーの姿で戦う神に対し、心にいるジュラン、ガオーン、マジーヌ、ブルーン、さらにはツーカイザーやステイシーザーの姿となって対抗する介人。それでも勝負はつかず、最期の決着をつける方法として介人が言い出したのは…なんとジャンケン。神も呆れてましたけど、一年間見てきた我々もさすがに呆気にとられましたね。かつてこれほどまでにハラハラした気持ちでジャンケンを見守ったことはありません。そして、グーを出した神に対し、介人が出したのは…パー。この勝利、グーが「閉じられている」「指が飛び出していない」のに対し、パーが「開かれている」「全ての指が飛び出している」、すなわち「閉塞」に対する「開放」のメタファーであるとネットで考察されていて、実に得心が行きました。勝負の結果を素直に受け止め、本心ではやはり世界を閉じ込めておきたくはなかったと吐露して世界を解放する方法を介人に教え、これまで作った世界、これから作る世界を全て大切にすることを約束して去っていく神。その方法に従って、スカイツリーの上空に隠されていた装置を破壊すると、閉じ込められていた世界は全て解放され、ジュランたちも戻ってくるのでした。

 

 こうして解放された世界間での交流が盛んになる一方、トジテンドのいなくなったキカイトピアでは新しい世界づくりが進行。キカイノイドたちとともにそれに尽力するステイシーも、いつでもカラフルに顔を出せるように。屈託のない笑顔を見せるステイシーに、この笑顔を見るためだけでも一年間見てきた甲斐はあったと思いました。もういっそのことここの子になっちまえよと何度も思ってきましたが、それを「大切な場所だからこそ息抜きのための場所のままにしておきたい」と固辞するステイシー。ほんとに最後までこの子はいい子ですね…。ゴールドツイカー一家はカッタナーとリッキーの呪いを解くことに成功し(けどフリントによっていつでもSD状態に戻ることが可能に。この娘も最後までとんでもなかった)、弱いものから略奪することをやめ、再び別の世界への旅へ。そして、介人もまた家族からの後押しもあり、別の世界を訪ねる旅へ。当然、ジュランたちも一緒に。考えてみれば、登場人物の中で一番チャレンジ精神やフロンティアスピリッツに溢れているのが介人なのに、自分や他の世界を守るため、両親を救うために自分の世界に留まって戦い続けなければならなかったわけですから、そこから解放された介人が別の世界へ旅立っていくのは至極当然で、かつこの物語のラストにふさわしいものでした。ジュランが「ゼンカイジャーってのは戦うためだけじゃなく、ぶっちゃけ介人のことが好きで集まった」というのは、これ以上なくゼンカイジャーという戦隊がどんなものかを言い表していましたね。並行世界へ旅立った介人たち。またいつか、どこかのスーパー戦隊の世界で我々は彼らと出会うことになるでしょう。

 

 さて、総評。人間1人、ロボ(?)4人の戦隊という設定を聞いた時には、いかにいろんな戦隊を見てきたとは言っても「大丈夫か?」と思わずにはいられませんでしたけど、「ワルドが出てきて世界がトンチキなことになり、それをゼンカイジャーがやはりトンチキな方法で解決する」という黄金パターンを早々に作り出し、気づいてみれば最後の数話までこのやり方で全部やり切った、という、非常にしっかりとした作りの戦隊となりましたね。黄金パターンとは言いましたけど、個々の話の内容はどれも予測不可能な展開のものばかりで、マンネリズムとは最も遠い地平のかなたにあり、「ルパパトのシャケ回を毎回やる」という放送開始前のスタッフの正気を疑う発言は伊達ではありませんでした。記念作品でありセンタイギアというアイテムを出しつつも、あくまでただのガジェットに留め、安易に過去の戦隊に頼らずにゼンカイジャーという戦隊の物語を描くことを徹底したのも高評価。そしてテーマ性を重視する戦隊らしく、キラメイジャーとはまた違ったかたちで多様性を尊重することの大切さを一貫して訴えてくれました。もちろん、このように毎回トンチキな物語が展開される中で、本来企画段階では存在しなかったキャラにもかかわらず、シリアスな部分をほぼ一手に引き受けてドラマの縦軸を回すことになったステイシーの存在について特筆すべきものであると評価しないわけにはいきません。彼の偉業は少なくとも向こう数十年は破られることはないでしょう。紛れもなくイレギュラーな怪作であると同時に、非常にしっかりとした名作。この物語もまた、これからも続いていくスーパー戦隊の歴史の中で、燦然と、しかし異彩を放つ作品として、輝き続けることでしょう。

 

 さて、来週からはこちらも別な意味でトンチキなことになりそうな暴太郎戦隊ドンブラザーズがスタート。メインライターを務めるのは、スーパー戦隊では実にジェットマン以来の登板となる井上敏樹氏。現在の心境は期待4割、不安6割といったところ。果たして一年後、私はこの戦隊に対してどういう評価を下すことになるんでしょうか。