BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

顳顬草紙 歪み

 前作「串刺し」から3年、平山夢明氏の実話怪談集「顳顬草紙」の第2弾。例のごとく図書館で借りて読みました。

 まず表紙が怖いです。今まで読んだ怪談本の中で一番怖い表紙かもしれません。既に他の家族が眠った深夜、最後に風呂に入って風呂上りにふとこたつの上を見たとき、先ほどまで読んでいたこの本の表紙を見てビビったときは、さすがにアホかと思いましたが。

 中身の方も表紙に負けず劣らず、粒ぞろいの恐怖が詰まっています。特徴としては明確に幽霊とわかるモノが出てくる話よりも、奇怪な現象や体験といった得体のしれないモノが恐怖を誘う話が多く収録されています。合わせ鏡から出てきたもう一人の自分、怪我が治るまでの間繰り返し目の前に現れた奇怪な魚、突然どこの国のものとも知れない言葉で喋り出す母親、同級生の家の禁じられた部屋に置かれていた大きな人形・・・。原因もわからず、正体もわからず、それがどんな意味を持つのかさえもわからないまま目の前を通り過ぎていく怪異の数々。実話怪談集としては作品数は少し少ないですが、そんななんともいえない怪異のもたらす恐怖を堪能できます。

 個人的に特に怖かったのは、母が夜中に見た見知らぬ人の正体が思いもよらぬかたちでわかる「ジャージ姿の長い髪」、ハチに刺されて寝込んだことがきっかけで、腕を感覚上で実際よりも長く伸ばせるようになった少年が味わった恐怖「腕の魂」、そして、少年時代に誰からかかってくるのかわからない公衆電話に悩まされていた人を15年後に再び襲う恐怖「いつかわかる」。特に、「いつかわかる」はいまだ結末が訪れていない、現在進行形の恐怖であるだけに恐ろしいです。