BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

小説 仮面ライダーキバ

 ブレイドはかなりひねった内容でしたが、キバはオーソドックスな本編の再構成ものでした。本編同様、現代の渡と過去の音矢とを行ったり来たりする展開。ただし、登場人物の方もかなり省かれていて、特にキバットの出番すらないのには驚きました。もともとキバはTVシリーズを見ていてやや冗長に感じるところがありましたが、この小説では本編の重要なエッセンスがすっきりとまとめられていて、TV本編よりも面白いんじゃないか?とまで思ってしまいました。TV本編を未見の方はこの小説から入るのも悪くはありません。

 基本的に渡や音矢が辿る道は本編とほぼ同じものですが、本編とは大きく扱いが異なる登場人物が2人。

 まずは静香。TV本編では最初から渡の保護者的な立場で登場していた彼女ですが、小説では渡のバイオリン教室生徒募集のチラシを見た彼女が渡の家を訪れるところから始まります。正直本編の彼女はあまりヒロインという感じがしなかったのですが、この小説では心理描写も頻繁に描かれ、渡の中でも深央と並ぶ存在の重さを見せており、音矢におけるゆりに対応するような扱いになっています。

 そしてもう一人は名護。本編とは異なりアメリカで開発されたイクサの試験の運用を行うために来日するというかたちで登場。TV本編よりもさらに厳格な完全主義者となっており、「その命、神に返しなさい」というおなじみのセリフもより峻烈な響きをはらんでいます。間違っても753Tシャツを着てイクササイズとか、そんなことはしそうにありません。そして、TV本編とは正反対と言えるような結末を迎えることに。音矢に出会って変わらなければTV本編の彼もこうなっていたのだろうかと考えさせられる内容で、TV本編のメインライターを務めていた井上氏はこの小説には監修として参加していますが、本当は名護をこういう人間として描きたかったのかなと思いました。

 あと、完全に余談ですが、不器用な刑事が豆腐を箸でつかもうとして悪戦苦闘するというTVドラマのワンシーンを音矢が回想する場面が出てきますが、間違いなくこれは同じ井上氏が手掛けた「アギト」の氷川のことで、なかなか洒落た遊びでした。