BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本 / 劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME

 毎年恒例、新旧ライダーが活躍する冬映画。今回もさっそく見てまいりました。今回は従来とは違って、セイバーとゼロワンとではつながりのない完全に独立したエピソードによる2本立て。例によってある程度のネタバレを含みますので、未見の方はご注意を。

 

◆劇場短編 仮面ライダーセイバー 不死鳥の剣士と破滅の本

 「ネタバレを含む」と書いておいていきなりなんですが、最初から言ってしまうとこのセイバーの映画に関して言えば、ネタバレが成立するだけの中身というものがありません。「とても強くて危険な敵が現れ、滅亡の危機に瀕した世界を、主人公のヒーローたちがその敵と戦って救う」。およそヒーロー映画と呼べる映画ならどんな映画であろうと説明が済んでしまうそんなあらすじだけしか、この映画にはありません。セイバーのTV本編をご覧になっている方ならわかる通り、この作品は本を題材としているにも関わらず、あたかも途中のページをすっ飛ばして終わりの方のクライマックスの部分だけを見せるかのような展開を毎回のごとく繰り返しているのですが、まさか映画でまでそれを、しかもより誇張したやり方でやるとは思いませんでした。おかげで今回の敵であるバハトも、 谷口賢志さんの熱演にもかかわらず、キャラクターとしての深みは何も伝わってこない薄っぺらい敵であり、したがって飛羽真たちと彼の戦いについてもお察しというものです。積み重ね! 何度も言うけど中身のある物語と丹念なキャラクター描写の積み重ねがなければ、作品への感情移入など望めるわけがないのです。正直、この映画だけだったら金返せと言い出すところなのですが、後述するゼロワンの映画によって、それは回避されることになりました。

 

◆ 劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME

 ゼロワンTV本編の最終回に突如登場した謎の男、エス。彼の変身した仮面ライダーエデンと、或人が変身したゼロツーが激しく戦う場面から始まるこの映画。構図的には前のセイバーの方もほとんど同じ始まり方をしたので、「うわ、こっちもか」と最初はげんなりしましたが、話が進みエスの正体とその真の目的が明らかになるにつれて、見事に予想外の方向へ持っていかれました。最初は「また悪意との戦いか?」と思いましたが、まるでこちらのそんな考えを見透かして「悪意との戦いはTV本編でうんざりするほど見せただろ?」とばかりに、その先を行く展開を見せてくれて、嬉しい誤算でした。登場人物たちも、TV放送時には私もいろいろと言いましたが、なんだかんだで彼らもあの一連の戦いを通して成長したんだなぁというのを感じさせてくれました。特に滅については、イズに連絡が取れない或人を捜しに行かないのかと気遣ったり、格段に人間らしくなっているのが目を引きました。特に終盤、敵の大群を目の前に彼が口にするあるセリフには、滅がそんなことを言うのを見ることができるだけでも、この映画にはゼロワンを見続けた人間にとって見る価値はあると思わせるものがありました。不破と迅はTV本編と相変わらずですがこの二人の場合はその方が安心感がありますし、唯阿はAIMSの隊長として指揮でも戦闘でも終始イキイキと大活躍しているので、ブラック企業を辞めて本当によかったなぁという気持ちになります。1000%は例によって敵だった頃よりも論理的で有能な仕事ぶりを発揮して敵の企みを暴いていく役回り。本当にこいつは、どうして敵だった頃にこの仕事ぶりを発揮できなかったのか…。

 そして、TV本編の最終回で或人がイズを復元したことに対してどうにも素直に歓迎できなかった私にとっては、或人がこの厳密には別人であるイズにかつてのイズを重ねるだけで終わるのか、そうでないのかというのがこの映画に最も重要な評価基準でした。結論から言えば「その時不思議なことが起こった!」というのと同然のやり方だったのですが、まぁこうするしかないだろうなとは納得できましたし、なによりイズからの或人に対する心からの言葉を聞いてしまえば、もはや何も文句はありませんでした。ゼロワンの最終章として、見たいものは全て見ることができた。そう言って間違いはないでしょう。