BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

ウルトラマンZ 第25話(最終回)感想

 デストルドスが世界各地の大都市を破壊していく中、事態の収拾とヨウコの救出のため決起し、基地の奪還に動き出す旧ストレイジ隊員たち。銃撃してくる防衛軍に対して、躊躇なく魔人態に変身してその攻撃を捌くジャグラーには仲間たちへの全幅の信頼が感じられましたし、続くシーンで彼が宇宙人と知ってなお、変わらず彼を隊長と仰ぎ準備を進めていくハルキたちからも、ジャグラー…というよりヘビクラ隊長に対する揺るぎない信頼が感じられました。見事な演説で仲間を鼓舞しながらも、いざとなったら逃げていいと気遣いを見せるジャグラー。かつての彼の姿を知る人間から見ればなんとも感無量の光景で、冒頭からすでに盛り上がりは最高潮でした。

 

 ジャグラーの読み通り、ストレイジ基地を最後の標的と定めて襲来したデストルドスに対し、迎え撃つハルキ搭乗のキングジョーとジャグラー搭乗のウインダム。2機がかりで善戦するもやはりデストルドスの力は兄弟で、あわやD4レイを撃たれそうになった瞬間、鋼鉄の鉄拳がデストルドスに炸裂する! バコさん搭乗のセブンガーが援軍として到着。いやあ、そのうちあるとは思っていましたけど、まさかこんな燃える状況での登場とは。「間にあったんだからいいだろう」というのは「ゴジラVSスペースゴジラ」でバコさんの中の人が演じた新城の上司である結城のセリフだし、さらにセブンガーがドリルのアタッチメントを装着という、スペゴジを見た人にはたまらないオマージュの連続! セブンガーを加えた3機で反撃に転じ、ユカによってデストルドス内部のヨウコの居場所が判明したことで、ついにヨウコをデストルドスの体内から引きずり出すことに成功するハルキ。ヨウコの意識の中でハルキが腕相撲を挑み、見事初勝利を決めて彼女の記憶を取り戻すという展開も、これまでの丁寧な積み重ねがあってこそでした。

 

 上空から落下するヨウコを追って、自らもキングジョーから飛び出すハルキ。躊躇なく変身を決めたハルキがヨウコの力も借りて変身する様は、やはりゼットの名付け親であるエースの変身方法、ウルトラタッチを意識したものだったのでしょうね。デルタライズクローに変身し、デストルドスに最後の戦いを挑むゼット。ベリアロクの身を呈した攻撃でデストルドスに大ダメージを負わせるも、自らもD4レイの暴発の余波でダメージを受け、オリジナルの状態に戻ってしまう。しかし、諦めずハルキとゼットの名を叫び続ける仲間たちの声が光となってゼットに力を与え、再びゼットは立ちあがる。ウルトラマンティガの最終回を彷彿とさせる展開ですが、ジャグラーもまたゼットに光を与えているのがいいですね。しぶとく喰らいつくような泥臭い戦いで、デストルドスと互角の戦いを繰り広げるゼット。ついにはその拳でデストルドスの顎を砕いて昏倒させ、最後のあがきのように放たれたD4レイに対して、ハルキと力を合わせ全力で放ったゼスティウム光線で押し返し、ついに爆発四散せしめたのでした。ニュージェネの最終回はだいたい最強の形態でラスボスの怪獣を倒すのが定番でしたが、他のウルトラマンの力を借りない、ゼット自身の素の姿であるオリジナルで最強の敵を倒すという展開は、師匠に三分の一人前と言われていたゼットの成長を何よりも物語るものでした。しかしその直後、仲間たちの声援を受けてかっこよく飛び立つも、途中で力尽きて落っこちるというのもまた、なんともゼットらしい締まらないオチでしたね。仲間たちが慌てて走り出す中、自らも苦笑しながらそれに続こうとしてはたと足を止めるジャグラーがまた、味わい深いです。

 

 その後、誰もいない街角で密かに地面を這っていたセレブロ。しぶといことにまだ生きていたのですが、その目の前に鋭い刃が突きつけられる。ゲームオーバーを告げるジャグラーの姿は、黒スーツに耳飾りを付けたいつもの姿に戻っていました。しかし、彼がセレブロに刃を突き立てようとした瞬間、セレブロに網が被せられる。諸悪の元凶を捕まえておおはしゃぎのユカ…と、カブラギ。よかったね、最後の最後に仕返しできて。あれだけのことをしたのだからセレブロはただ死ぬだけでは生ぬるいとは思っていましたが、ゲームの駒として弄んでいた人間につかまって体を切り刻まれ、今度は自分が好奇心を満たす対象になるというのは、こいつの最期としては最も相応しいものでしたね。あまりのことに呆気にとられつつも、自分が思っていた以上にたくましいこの星の人間の姿に安堵したかのように自然に笑みを浮かべるジャグラー。「また会えますよね?」と別れを惜しむユカに「じゃあな」とだけ残して、あの風来坊のように一人去っていきました。この作品で主役以上に常に物語の中心にあり続けたジャグラーには常に驚かされてきましたが、ああいう笑顔を見せることができるようになったのは、オーブ以来彼を見続けてきた者としては感慨深いものがありますね。なにより、道を誤り一人でかつての友に戦いを挑み続けては勝てずにいた男が、紆余曲折を経てこの異郷の地で自分を信じてくれる仲間を得て、ようやくその手に価値ある勝利をつかみ取る様を見届けることができたのが素晴らしい。自らの正義を貫き、ウルトラマンの正義に疑問を投げかけ続ける彼の戦いは、これからも続いていくのでしょう。それを再び見られるかどうかはわかりませんが、この希代のトリックスターの次なる出番を楽しみに待ちたいと思います。

 

 一方、ハルキにも仲間たちとの別れが迫っていました。他の宇宙で助けを必要としている人達を救うため、ゼットと共に旅立つことにしたのです。ニュージェネのウルトラマンたちは最終回後も地球に留まることが多かったですが、昭和のように地球を去る、それも、ウルトラマンと一心同体になっていた地球人が自らの意思でそれに同行するというのは、極めて異例のことですね。盆と正月には帰ってくるというのが、やっぱり気が抜けますが。ヨウコたちの敬礼に見送られ、お辞儀を返して空へ飛び立つゼット。そしてその途中、消滅したと思っていたベリアロクがあっさり戻ってきて合流。次元の縫い針的存在だから、次元崩壊を起こすD4レイも大したことはなかったのでしょうか。ゼット、ハルキ、ベリアロク、三人そろって一人前のウルトラマンということでしょうかね。ぶっちゃけてしまえばセレブロの悪行を止めただけで、ゼット本来の任務であるデビルスプリンターの鎮圧は全く進んでないわけですが、それも含めて今後のシリーズでも、ゼットの活躍を期待したいと思います。

 

 さて、シリーズ全体の総評ですが、これはもう従来のファンのみならず新たなファンを巻き込みながら大きな話題となっていただけでも、ウルトラシリーズの歴史に残る大傑作という評価は揺るがないでしょう。序盤で原点回帰的な明るく楽しいウルトラマン像を見せ、そのノリを維持しながらも中盤以降は予想もつかないかたちでシリアスな展開に発展させ、これまでのウルトラシリーズでもスポット的に取り上げられることはあっても主題として取り上げられることはほとんどなかった、自衛のために過ぎた力に手を伸ばすことへの警鐘を鳴らす終盤へと収斂していく、練りに練られた物語。最初に最終回を決めてそこから逆算するかたちで作られたということですが、これほどの物語を紡ぎ出した吹原幸太氏の早逝が惜しまれてなりません。さらに、元々はオーブの悪役だったジャグラス・ジャグラーの新たな暗躍、単なるサポート役に終わらずウルトラマンに負けない活躍を見せる特空機、新規デザインの怪獣が少ない代わりに既出の怪獣に新たな側面を与える試み、様々なかたちで提示される過去のシリーズとの繋がりと、作品を魅力的にする意欲的なアイディアがかつてないほどふんだんに盛り込まれていたことも、もちろん見逃すことはできません。生まれて60年以上が経ちながら、まだこれほどワクワクさせてくれるウルトラシリーズのポテンシャルを見せつけられた思いがします。これ以上のものを生み出すのは大変なこととは思いますが、ウルトラシリーズのさらなる世界の広がりにこれからも期待します。もちろん、その前にいまだ何のニュースもないゼットの劇場版製作決定のニュースを期待したいのですが。