BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

ウルトラマンブレーザー 第9話感想

 アンリのもとに届いた1枚の手紙。それは、かつて音楽を通じて親交を深めたツクシホウイチが率いる楽団のコンサートチケットであった。そんな中、宇宙から落下した隕石の中から、奇怪なロボット怪獣が現れた…。

 

 ウルトラQでの初登場から57年。メジャーな怪獣でありながら実現してこなかったウルトラマンとガラモンとの初対決が、ついに実現することになりました。とはいえ、ガラモンと言えば見た目こそ唯一無二のインパクトはあるものの、炎や光線を吐くわけでもなく、特殊な能力を備えているわけでもなく、できることと言ったら体当たりぐらいというのがウルトラQでの描写から測れる戦闘能力で、果たしてこれでウルトラマンとまともな勝負ができるのか?というのがファンの間での下馬評でしたが、いざ訪れた対決の場で、ガラモンが見せた真の実力とは…。

 

 ウルトラQと同様ガラダマに乗って飛来し、ガラダマを割って出現したガラモン。ウルトラQでの最初の登場同様、高熱で干上がった川をガチャガチャと特徴的な足音をたてながらうろついていたところを、まずは迎撃にやってきたアースガロンと対決することに。ウルトラシリーズ最古と最新のロボット怪獣同士の対決となったわけですが、ここでまず我々は驚愕することに。アースガロンの攻撃をおなじみのピョコピョコ跳ねる動きでかわし、Mod.2のレーザーが命中してもそれを弾き、一見柔らかそうな腹にアースガロンがパンチを叩き込んでも衝撃が分散され有効打とならず、転倒してもバネ仕掛けの人形のようにすぐに起き上がる。ついにはその見た目からは想像もつかない大ジャンプでアースガロンを飛び越して背後に回り、体当たりでMod.2を破壊。さらにからだ中に生えた珊瑚を思わせるゴツゴツした棘が装甲に突き刺さり、コクピットにいたヤスノブの鼻先まで貫通する…とまぁ、ほぼ一方的と言ってよいほどアースガロンを叩きのめすガラモン。ガラモンやガラダマを構成する材質で、珪酸アルミニウムの一種であるガラス状結晶体と設定されているチルソナイトは、工業用グラインダーで削っても傷一つつかない硬さと、一抱えほどもある塊でも子供が楽々抱え上げられるぐらいの軽さを併せ持つことがウルトラQで描写されていましたが、まさにその硬くて軽いチルソナイト製のボディこそがガラモンの唯一にして最強の武器であることを、まざまざと見せつけられたわけです。ダウンしたアースガロンに代わって今度はブレーザーが相手になりますが、ここでもガラモンはその持ち味を生かした強さを発揮。なんと、スパイラルバレードをもへし折ってしまいました。一体でこの強さなら、もし「ガラモンの逆襲」のように複数体が投入されていたらと思うと、背筋が寒くなりますね…。

 

 さて、ガラモンと言えばセットで語られるのが、ガラモンを送り込んだ張本人である侵略宇宙人、セミ人間ことチルソニア遊星人。今回のゲストキャラであるツクシホウイチら楽団メンバーが皆セミの名前をもじった名前だったので、彼らがセミ人間であることは容易に想像がつきましたが、ウルトラQセミ人間同様地球侵略のために送り込まれながらも、地球の音楽に魅せられてしまった宇宙人、という描き方をしてくるとは思いませんでした。ウルトラQのガラモンは先行して送り込まれていた電子頭脳が発する電波によって操られていましたが、今回は楽団が演奏する音楽によって操られるガラモン。ツクシホウイチ役の東儀秀樹氏自身が編曲したウルトラQのメインテーマの調べに乗って動き出すガラモンには鳥肌が立ちました。美しく、悲壮な演奏が流れガラモンとブレーザーが戦う中、直感に従って彼らを止めに来たアンリに自分たちの素性を明かすツクシホウイチ。最初はウルトラQ同様の白黒だった画面が、彼らが蓄音機から流れる音楽と出会うことで鮮やかな色彩を帯びる演出は、本当に美しかったです。ウルトラQの「ガラダマ」「ガラモンの逆襲」は、ガラモンやセミ人間という個性的なキャラクターを除けば話の筋立てとしては割とオーソドックスな宇宙人の侵略モノでしたが、そのセミ人間にいつまでも音楽を奏でていたかったが本来の使命を果たすという終わりが来てしまった、まさにセミの宿命そのものを重ねた抒情的な描き方をしてきたというのは、本当に予期せぬ方向からパンチを喰らった気分です。この回の放送を夏の終わりに持ってきたことまで意図したことだったとしたら、完璧に脱帽ですね。

 

 止めてほしかったからこそコンサートチケットを自分に送ってきた、という彼らの真意を汲み、アンリの放った銃弾がツクシの手を撃ち抜いて遂に止まる演奏。それと同時にガラモンの動きも止まり(ウルトラQ同様ゲロを吐くところも完全再現)、ブレーザーは両手にレインボー光輪を出してガラモンを持ち上げながら丸鋸のように削り、遂にガラモンの破壊に成功。ニジカガチを一瞬で真っ二つにしたレインボー光輪をもってしても破壊するのに20秒ぐらいかかったというのが、改めてガラモンのとてつもない頑丈さを描いていましたね。宇宙に音を発する生物は数多くあれど、地球人は「音」を「楽しむ」ことができる。「音楽」を自分たちに与えてくれた地球人を消さずに済んだことに安堵するツクシを壇上に残してステージの幕は降り、物語もまた終わる。「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです」。ウルトラQにはこのナレーションの言葉通り、見ている人間の心が体を離れ、作中世界の不思議な時間の中に入り込んでいたところで突然そのつながりを断ち切るような唐突な終わり方をする回がいくつもありますが、今回もまた、そんな作品世界の中に突然心を置いていかれたような気分になりました。ウルトラマンZの「2020年の再挑戦」、デッカーの「らごんさま」と、近年ウルトラQに最大のリスペクトを捧げながら新たな視点と解釈を加える精神的続編とも呼ぶべき作品が作られていますが、今回の「オトノホシ」はその中でも最高傑作と評しても間違いはないでしょう。今回の脚本を担当した植竹寿美男氏が今年2月に亡くなられたというのが残念でなりません。