BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

岸辺露伴は動かない

 「ジョジョの奇妙な冒険」第4部の登場人物にして、マンガのためならいかなる苦労もいとわず他人の迷惑も顧みない天才漫画家・岸辺露伴が取材先で体験した奇妙な出来事の数々を描いた短編集。

◆エピソード#16 懺悔室
 イタリアでの取材旅行中、ひょんなことから教会でとある男の懺悔を聞くことになった露伴先生。いわゆる幽霊話ですが、オチが秀逸。幽霊などより生きている人間の方が恐ろしいとはよく言いますが、まさにその通り。人間に悪知恵というものがある限り、他の何者も恐るるに足りずというものです。2人の怨霊に見張られながら残りの人生を過ごすことになった男のその後は露伴先生も知りませんが、案外この先も何度も怨霊を騙しおおせて天寿を全うできるんじゃないでしょうか。そんな人生が幸福かどうかはわかりませんけど。

◆エピソード#02 六壁坂
 妖怪伝説のあるとある山の取材のための山を六つ買った結果、破産する羽目になった露伴先生。しかしこれっぽっちも後悔していないあたりが、さすがはマンガのためなら鬼となる露伴先生ここにあり。しかし、いつまでも腐ることなく血を垂れ流し、水をかけると少しの間だけ元の姿に戻るなんて気色の悪い死体、普通だったら隙を見て埋めるなり焼くなり始末するものでしょうけれど、そんなものに依存するような人間を見つけてその心につけこむのも、妖怪六壁坂の力なのでしょうか。
 しかし妖怪好きとしては、六壁坂が「子孫のみを残すのを目的とした妖怪」だというのが面白い。妖怪というのは基本的には生き物のはずなのですが、子孫を残すという生物として最も基本的なことに頓着する妖怪はとても少ない。有名なものとしては「遠野物語」に記述のある、人間の女をさらって妻にする「山男」や、人間の女のもとに通って異形の子どもを孕ませた「川太郎(河童)」ぐらい。どちらも形態的に人間に近い妖怪なのが面白いですが、中国には木の精が人間の女を孕ませたという話もあります。

◆エピソード#05 富豪村
 山奥にある道路も電線も通っていない周囲から隔絶された「村」。その「村」の住人達は皆、25歳の時にその「村」に別荘を買ったことで幸運に恵まれて大富豪になった者ばかり。担当の女性編集者から、自分もその「村」に別荘を買おうと思うのでそれをネタにしたらどうかと誘われた露伴先生は・・・。
 「だが断る」に続く露伴先生の名言「だが帰る」誕生。マナーを破ったために死にかけた女性編集者を救うために試されることを選ぶあたり、露伴先生もただのわがままな人じゃないんだなと好感が持てます。
 山の神様がマナー・・・というかルールに厳しいというのは、確かに一理ありますね。女人禁制の霊山とか、切ってはいけない樹、枝一本葉っぱ一枚持ち帰ってはいけない山林など、海に比べて山はその手の決まりごとが特に多いように思えます。なぜかこの話の神様がうるさいのは、人間が決めたマナーばかりですが・・・。

◆エピソード#06 密漁海岸
 イタリア料理人にしてスタンド使い・トニオさんから、杜王町の海岸に生息する幻のクロアワビの密漁の手伝いを持ちかけられた露伴先生。「密漁をします」「だから気に入った」のやり取りは、やっぱり荒木先生もお気に入りなんですね。それにしても、幽霊も妖怪も神様も出てこない、ただのアワビを採りに行くだけでここまで面白い話を作れるとは。ただ、いくらタコの知能が高いとはいえ、日本語で命令を書き込んで言うことを聞かせられるのか?とは思いますが。それと、「ヘブンズ・ドアー」で本にしたタコにどんな言葉でどんな記憶がつづられていたかがすごく気になります。

岸辺露伴 グッチへ行く
 マンガというよりはどちらかといえば絵そのものを楽しむべき話のような。本来はカラーで見るべきなんでしょうね。