BLACK DODO DOWN

HN:影月。「怪」のつくものを好み、特撮・ゲームを中心に、よしなしごとをそこはかとなく書き付くる。

ニートがひらく幸福社会ニッポン

ニートがひらく幸福社会ニッポン――「進化系人類」が働き方・生き方を変える

ニートがひらく幸福社会ニッポン――「進化系人類」が働き方・生き方を変える

 読了。ニート支援の問題だけでなく、21世紀の日本がどういう社会であるべきかということについてまで考えさせる、なかなかの一冊でした。

 著者の二神氏は学習塾や幼稚園経営を経て「ニュースタート事務局」というニート支援のNPO法人を立ち上げ、多くのニートたちの就労・生活支援にあたってきました。この本の中で二神氏は、ニートのことを世間一般でいわれるような社会の落伍者ではなく、むしろ、21世紀の社会にふさわしい価値観を持った進化系人類であると説きます。

 誰もが知っている通り、日本は今世界に類を見ない速さで少子高齢化と人口の減少が進んでいます。子供の数が減り、逆に老人の数が増え、人口は先細りしていく一方。これではどう考えても、日本がこれまでのように右肩上がりの成長を続けていくことは不可能でしょう。もっと言ってしまえば、おそらく日本は今よりも貧乏になる。そこに現れてきたのが、親の世代とは異なり最初から周囲にモノがあふれ、努力すればするほど豊かになれるという神話が崩壊したバブル崩壊後の社会の中で成長してきた若者たち。物欲を持たず、他人を蹴落としてでも前に出ることが苦手な彼らこそ、もはや経済成長至上主義では成長が望めなくなったこれからの社会にふさわしい価値観を持った人間のはず。しかし現在の日本社会はといえば、21世紀に突入してから干支が一巡しているにも関わらず、いまだに本質的には20世紀の価値基準のもとで動いています。「正社員の父と専業主婦の母が家庭を支え、郊外にマイホームを持つ」という昭和的な理想像そのものはもはや崩壊していますが、非正規雇用より正社員の方が望ましいと思われたり、女性が子供を育てながら働く環境の整備が不十分だったり、20世紀の価値観が根強く残っていると感じさせる現実はいくつもあります。そして、今社会を動かしている親世代の人間はそんな20世紀の価値観に固執している自分に気づくことすらなく、もはや21世紀の価値観を持っている子供たちに、20世紀の価値観で生きることを無自覚に押し付けている。その結果、社会に出たくてもうまく適応できない若者たちが生まれ続ける。これが、ニートや引きこもりが生まれる本質的な原因だと、この本は説いています。おそらく、ニートの問題に限らずシングルマザーとか生活保護受給者とか、今世の中で問題になっていることの多くが、右肩下がりの現実を直視せずに過去の価値観でもって社会を動かそうとしている今の世の中のやり方に起因しているのではないでしょうか。

 かく言う私も、酒もたばこも賭け事もやらず、本は基本的に図書館で借りて読み、ネットの小説や動画を楽しみ、どうぶつの森やモンハンをやっていればそれで満足、という金をかけずに幸福感を得られる人間です。会社に勤めているというだけで、根っこの部分はたぶんニートや引きこもりの人とあまり変わりないと思います。この本を読んで、常々感じてきた社会に対する違和感の正体の一部がわかったような気がしました。

 徳川家康の家臣で、生涯57度の戦に出陣しながらかすり傷一つ負わなかったという武将・本多忠勝。彼は年を取り、体力の衰えを自覚した時、「槍は自分の力に見合うものが一番」と愛槍・蜻蛉切の柄を短く切り詰めたという逸話があります。自らの衰えに目を向けず、それまで通りの槍を振るい続ければ、無駄な体力を使うばかりか、疲れた隙を突かれて討ち取られる恐れもあったでしょう。この国の衰退・縮小が目に見えている今、もはや通用しなくなった価値観のもとあがき続けるか、身の丈に合った新たな生き方を考え直すか。今、誰もが問われていると思います。